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フィルムメーカー小田香インタビュー 他者の声を拾い、遠い未来へ届けたい

2025.2.20

#MOVIE

被写体を、都合の良い物語のキャラクターにしないために

—撮影をはじめる前から、観客としてもたくさんの映画をご覧になっていたのでしょうか。

小田:映画館に行く習慣は家庭にも、友人たちのコミュニティの中にもなかったですね。私の映画の原体験は、鑑賞よりも『ノイズが言うには』(2010年)の制作にあった気がします。

—小田さんがホリンズ大学の卒業制作として監督された作品ですよね。

『ノイズが言うには』あらすじ:主人公は23歳の誕生日に自身が性的少数者であると家族に告白するが、突然の告白を受けとめられず拒絶の母、沈黙の父。その反応に主人公は失望するものの、各々が自己を演じ、その言動を追体験する映画を制作し始める。/ ©Oda Kaori

小田:『ノイズが言うには』は当時の先生が「何を撮っていいかわからないんだったら、今の自分の人生の、最も葛藤していることを撮りなさい」と助言をくれて撮影した作品で。自分はその中で、性的指向や性自認のことを、家族に伝えました。でもそれがひと段落したら、自分の中に発したいメッセージがこれ以上見つからないと思ったんです。

そこで映画作りをやめてもよかったんですけど。でも『ノイズが言うには』の制作を通して、カメラの暴力性に向き合うと同時に、カメラにはコミュニケーションツールとしての可能性も絶対にある気がして。そこにもう少しすがっても良いんじゃないかと思いました。

私自身に発したいメッセージが何もないとしても、自分の知らない世界や、理解したいけどできていないものを探求するために映画を用いることはできるかもしれないと考えがシフトしていったんです。

—その後、ご自身の作品スタイルはどのように確立していったのでしょうか。小田さんの映画はカメラが上下左右垂直水平を自由に行き来しますし、詩的で抽象的なシーンも多いので「これを観てあなたはどう感じるか」と、良い意味で映画に挑まれているような感覚があります。

第1回大島渚賞を受賞した小田香監督『セノーテ』(2019年)予告編

小田:撮影時は「自分がどう撮りたいか」というスタイルの話よりも「どうすれば故意に被写体を傷つけずにカメラを置けるか」という倫理の問題がまず頭に浮かびます。そういうことを考えるようになったのも、『ノイズが言うには』で家族にカメラを向けた経験があったからやと思います。

—カメラの倫理の話を詳しく伺ってみたいです。例えば過去作では具体的にどのような点を意識されていましたか。

小田:例えば『鉱 ARAGANE』(2015年)という映画では撮影時、被写体の口から少し労働環境の話題が出てきたのですが、そのことについて消費したり、わかったふりをしたりしないように意識していました。

『鉱 ARAGANE』予告編。ボスニア・ヘルツェゴビナ、首都サラエボ近郊にある地下300メートルのブレザ炭鉱で撮影された。

小田:炭鉱というと、一般的には「危ないお仕事」「いかに過酷な労働か」という話題が挙がりやすいと思うんですが、それって、自分で思っていたことだったかな、と。元々労働環境について伝えることが目的だったらいいんですけど、そうじゃないときに、いやらしい心で取り入れようとすると、結果的に自分の首を絞めるな、と。

自分がそのときの能力で伝えられる限界というのがきっとあって、それ以上のことを映画でやろうと思ったら、どこかで歪みが生まれると思うんです。自分にとっても、被写体の方たちにとっても。

—自分が責任を取れないような話題を、変に切り取らないというか。

小田:消費しないこと、こちらで物語を作らないことは意識しています。だって、本当は知らんやん。半年取材に行っていても、30年そこで勤めてた人のことなんかわからへん。それをわかったふりして言わへんとこ、と思ってました。映画が今後も上映されるときに、本当に自分が死ぬまで責任持てることかを考える必要があるなと。

編集・浅井:小田さんの作品を観ていても、個人的な感覚としても「物語を作らない」という感覚は非常によくわかります。一方で「物語」には強さもあると思っていて。その線引きについてはどう捉えられていますか。

小田:物語の強さは、間違いなくあると思います。物語という型に落とし込むことで、伝わっていく物事もあると思いますし。「自分にとって都合のいい物語にしない」という点は意識していますが、フィクショナルな要素の一部として、物語の構造を借りるということは、これからもっとあり得るかなという気がします。物語って共有スペースみたいなところがあるじゃないですか。それをうまく活用できたらな、と。

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