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“Don’t Know Why”はデモレコーディングだった!?
―なるほど。
ノラ:リオンは最初、デモテープを作っていると思っていたみたい。つまり、二人で作ったデモを元に、バンドでもう一度スタジオに入って、全てレコーディングし直すと思っていたという意味ね。実際にそうした曲もあったけど、私は二人でレコーディングしたもののクールな雰囲気がとても気に入っていて、ほとんどはそのままリリースすることになりました。彼のドラムと私のピアノの組み合わせはとても面白くて、ガレージっぽい質感だけれど、グルーヴもとても感じられると思います。全ての曲をバンドで再レコーディングしていたら、きっと全く違うサウンドになっていたはず。
―そもそもレコーディングし直さなくても使えるクオリティのデモ、つまり、それだけ完成されたデモだったってことですよね?
ノラ:それって、そんなに特別なことでもないと思うんです。“Don’t Know Why”もデモレコーディングでした。あまり考え過ぎず、曲をただプレイして、それがグレイトなサウンドになる、それだけ。昔のレコードはだいたいそうやって作られていますよね? そういうことはよく起こると思います。
―これまであなたが作ってきたものはデモの段階でこのクオリティだったと。
ノラ:今のポップミュージック畑では珍しいやり方なのかもしれませんけど、私たちはただプレイして、音楽を作っているだけだから。すでにいいサウンドだったら、20回もレコーディングする必要はないですよね。
―それはそうですが……。さっきあなたも言っていたように、リオンはヴィンテージの機材や楽器を操る職人です。一方で『Visions』はレトロやノスタルジックではなく、現代的でもあります。だから、時代を感じさせない不思議な感覚があると思うんです。今回、録音やミックスに関してチャレンジした部分はありますか?
ノラ:前作もリオンと作っていて、ミキサーも同じ(=イェンス・ユングクルト Jens Jungkurth)だったので、今回が特にというわけではないですが、リオンと一緒に仕事をすること自体、それまでと違う感触なのはたしかです。彼はとても忙しい人で、並行して色々なことに取り組んでいます。だから、1ヶ月ぐらい音沙汰がなかったりするんですね(笑)。私は、彼に一緒にやれる時間ができるのを待っている、という感じ。その感じも楽しかったです。

ノラ:あと、私にとって今までにないことだったのは、リオンはラフミックスを途中で送ってきませんでした。私はラフの段階で音源をもらうと、まだ完成されていない状態でもそのサウンドに慣れてしまって、苦労することが多いんです。だから、彼がラフミックスを私に聴かせなかったのは、すごく良かったと思います。聴き直して分析し過ぎなかったのも良かったと思うし、「何か手を入れよう」と考え過ぎないで済んだから。その結果、歌詞を書くことにも集中できました。
―なるほど。
ノラ:私たち二人とも、去年はとても忙しかったんです。特にリオンがとても忙しかったから、そんなに頻繁にこのレコーディングに取り組めなくて、一緒にスタジオに入れる時間がやっと取れても11時から3時だけ、とか。でも、それはそれで良かったですね。