INDEX
『Visions』の独特なサウンドテクスチャー
―さっきもコーラスの話が出ましたが、“I Just Wanna Dance”のように自身の声を幾重にも重ねていることで、豊かなサウンドになっている曲がいくつもあります。ハーモニー面でのこだわりはどうですか?
ノラ:このアルバムのハーモニーの部分はとても気に入っています。今回はまずドラムとピアノ、次にボーカル、それから全てのハーモニーの順にレコーディングしたんですね。それで、ベースは1年ぐらい録音しなかった(笑)。何曲かに関しては、ハーモニーとピアノとドラムだけでもう完成された感じがしていたんです。最終的にはベースも足したけど、ハーモニーが全てを作りあげていて、他の音を加えるスペースが無かった。ギターとオルガンが少しと、数曲だけサックスとトランペットが入っているけど、それ以外の楽器は全然入れていません。もうハーモニーでいっぱいになってしまったから。
―ここからは録音やミックスの話を聞かせてください。あなたはずっと録音やミックスにものすごくこだわってきたアーティストだと思います。『Begin Again』『Little Broken Hearts』などあなたの作品以外でもPuss N Boots『Sister』などを聴くと、面白い響きや手触りが詰まっています。『Visions』はこれまでにあなたがやっていない音が鳴っていますよね。
ノラ:リオンとレコーディングしていると、ある特有のサウンドになっていくんです。彼には、古い機材の使い方やマイキングなど、独特のレコーディング手法があって、かっこいいサウンドを持っている人。だから、一緒にレコーディングすればこういうサウンドが出来上がるだろうとイメージはしていたけど、ディスカッションして事前に決めたわけではないし、深く考えすぎもしませんでした。
それにリオンは、自分のサウンドを他人に押し付けるようなことをしません。プロデューサーによっては、自分のサウンドカラーを無理に出そうとして、それが曲と合わなかったり、自然じゃなくなることがある。でも彼の場合は、ごく自然に彼のサウンドが敷かれていく感じで、ただクールな音になっていきましたね。
―リオンのクールなサウンドって例えばどんなところだと思いますか?
ノラ:そうですね……リオンはヴィンテージなマイクや古いアナログのディレイを持っているけど、昔っぽいサウンドを作ろうとしているわけではない。すごく興味深いバランスで音を作っていると思います。ヴィンテージの機材を使った制作って、レトロなサウンドになることが多いですよね。でも彼の場合は、古く聴こえるように作っているわけじゃなくて、すごくいい音に聴こえて、同時に土臭くてザラっとした感じに聴こえるんです。