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即興演奏のバックグラウンドが反映された“Staring At The Wall”
―『Visions』はこれまであなたとの作品とも異なる特別な作品だと思います。一方で、ずっとあなたの音楽を聴いてきた僕は、どの曲もめちゃくちゃノラ・ジョーンズの曲だな、とも感じます。でも、やっぱり今までと違うんですよね。『Visions』はそこが素晴らしいと思っています。今回のリオンとの制作方法だから出てしまった、普段の自分なら出なかった部分があったら教えてください。
ノラ:私が最初にスタジオの中で曲を書いたのは、デンジャー・マウスと作ったアルバム(『Little Broken Heart』)でした。それまでは「曲やアイディアを持たずにスタジオに入って、そこで様子を見ながら書く」ということに、心地良さを感じなかったんです。あの経験をきっかけに、そういう作り方もやるようになりました。
ノラ:リオンとの作業では、常にアイディアが浮かんできて、「スタジオに入ったのに何も起こらない」ということがなかったんですね。エキサイティングで、とてもいいケミストリーだったと思います。彼は事前に何かを考えてきて、それを私に強いるようなことはしなかったし、私もそれをしなかった。二人ともとてもオープンで、音楽を作るのをただ楽しんだ、という感じでした。二人でひたすらアイディアを出し合って、それが上手く曲としてまとまったんです。
―もしかしたら、今回リオンと二人で作曲をしたのは、“Staring At The Wall”のミュージックビデオに映っているスタジオですか?
ノラ:そうそう。あの曲はあのスタジオで収録していて、ビデオで見てもらっている通りにレコーディングしています。あのビデオは、どういう風に制作されているのかを見てもらうのにとてもいい方法だと思って、あの形にしたんです。
―“Staring At The Wall”のMVは本当に素敵で何度も見ました。ヴィンテージの機材や楽器が揃っているスタジオの環境がアイディアを生んだこともあるのかなと想像しましたが、どうですか?
ノラ:そうだと思います。あの曲は本当に早いペースで出来上がりました。きっと今までで一番早く出来上がった曲なんじゃないかな? そこがすごく気に入っています。彼がドラムを叩き始めて、私がギターを弾いたら、メロディーが浮かび上がって、あの「Ahhh woooh」っていうコーラスを思いついたんです。それで、ギターとドラムを録って、ボーカルもぱぱっと収録した。不思議なことにこの曲に関しては、歌詞も早いペースで出来上がったんです。
―そうなんですね! なぜそんなに早く出来上がったのでしょうか?
ノラ:わからない(笑)。インスピレーションが沸いてきちゃったのかもしれません。
―そんなスピード感でスタジオで音を出しながら作曲をするというのは、セッションのようなものなのかなと想像します。だとしたら、それは、「即興」や「インタープレイ」をゆっくりやっているような状態なのかとも想像します。あなたの「即興力」みたいなものが発揮されているといいますか。
ノラ:そうそう。おそらく全ての曲がそういう風に出来上がっています。レコーディングは、作り込もうと思えば思うほどクールな音にならない。私は元々即興をたくさんやってきているから、あまり考え抜かれていないところから何かが生み出されるほうがベストなものになる、と考えているところがありますね。
