2012年にフジテレビ系にて放送された連続ドラマ『最後から二番目の恋』と『最後から二番目の恋2012秋』、2014年に放送された『続・最後から二番目の恋』に続いて、まさかの11年ぶりにはじまったドラマ『続・続・最後から二番目の恋』。
ダブル主演の小泉今日子と中井貴一をはじめ、坂口憲二・内田有紀・飯島直子らレギュラーメンバーと完全オリジナル脚本を手掛ける人気脚本家・岡田惠和、主題歌を手掛ける浜崎あゆみらが、13年間、欠けることなく奇跡的に再集結した本作は、熟練のチームによるコミカルな掛け合いの合間に挟まれる名セリフや名シーンの数々もあり、幅広い世代に愛されている。
東日本大震災後、コロナ禍を経た2025年の鎌倉の古民家を舞台に、還暦前後の2人の恋を描いたロマンチック&ホームコメディである本作について、毎クール必ず20本以上は視聴するドラマウォッチャー・明日菜子がレビューする。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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11年の時を経て奇跡の再集結

2025年春、大人世代が織りなす恋愛あり家族ありお仕事あり――まさに「人生」そのものを表すようなシリーズドラマ『最後から二番目の恋』が、2014年放送の『続・最後から二番目の恋』に続いて、『続・続・最後から二番目の恋』として帰ってきた! 変化が目まぐるしい時代において、小泉今日子&中井貴一をはじめとした俳優陣、脚本を手がける岡田惠和、主題歌を担当する浜崎あゆみまでもが、11年の時を経て再集結したことは奇跡と言って差し支えないだろう。
本シリーズは、敏腕ドラマプロデューサー・吉野千明(小泉今日子)が、鎌倉の古民家に移り住むところから始まる。隣に暮らすのは、市役所職員の長倉和平(中井貴一)と娘のえりな(白本彩奈)、和平の双子の妹弟で次女の万理子(内田有紀)と次男の真平(坂口憲二)の長倉一家。そこになぜか、嫁いで家を出たはずの長女・典子(飯島直子)が連日のように押しかけていた。当初の千明は、寂しい女性たちを癒す“鎌倉の天使”こと真平と付き合うものの、短期間で恋人関係を解消。その後、千明は万理子からも好意を寄せられるが、結局一番、馬が合うのは、毎日ケンカばかりしてきた和平だと気づいていく。そんな二人より先に、真平は鉢合わせるたびに小競り合いをしていた「金太郎」こと知美(佐津川愛美)と結婚。千明と和平も一度は、酔った勢いでラブホテルを探すも見つからず、未遂のまま、『続・続・最後から二番目の恋』第5話放送時点の今も絶妙な関係がつづいている。
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「変わらない」日常の中の「変わりゆくもの」

11年ぶりに幕が開いた『最後から二番目の恋』。その「変わらなさ」に、胸をなでおろした視聴者も多かったはずだ。朝から賑やかな長倉家の食卓。真平が朝食をつくり、万理子がひたすら千明に愛を伝え、ひょんなことから千明vs和平の試合開始のゴングが鳴る。そうこうしている間に文句を垂れながら典子が現れ、最年少なのに誰よりも大人なえりなの「遅刻です」で、みんながバタバタと家を出る。第5話では、放浪癖のある典子の夫・広行(浅野和之)と元祖ギャル脚本家のハルカ先生(益若つばさ)も再登場。いよいよ役者が出揃った感もあるのではないだろうか。
しかし、『続・続』は「変わらない」日常の中にも、たしかに「変わりゆくもの」があることを描いている。千明は現在59歳。いまや定年後のセカンドライフを考える歳になった。年齢を重ねるごとに役職も上がり、己の権威性を鑑みながら部下と接しようとするものの、その配慮自体が「時代遅れ」に映ってしまうことに頭を悩ませている。かつて自分が憎んでいた上司と似たような素振りをしてしまうことにも葛藤する。自分が「新しいんだか古いんだか」「アップデートされてるんだかされてないんだか」「正しいんだか間違ってんだか」わからない。それがミドル・シニア世代の切実な本音だ。一方、63歳になった和平は、定年退職後に観光推進課の「指導監」という役職に就任。とはいえ、その実態は、課長になった元部下・田所(松尾諭)が起こした失敗を尻拭いするために頭を下げる日々だ。劇中の鎌倉市は、第2シーズンの『続』から登場した市長・伊佐山(柴田理恵)による市政が長く続いているが、街の景色はすっかり変わった。インバウンド需要が高まり、外国人観光客の姿も日常に溶け込んでいる。そんな時代に求められているのは、『続・続』から新たに登場した鎌倉観光協会の通訳バイト・律子(石田ひかり)のように語学が堪能な人材なのである。
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変化の切なさを描写し肯定するシリーズドラマ

放送中の『続・続』で、より浮き彫りになったテーマが「老いと死」だ。それは人生における最も大きな変化であり、誰にとっても避けようのないことでもある。本シリーズの脚本家・岡田惠和による過去の作品において、死を扱うこと自体は特別なことではない。たとえば、『さよならのつづき』(Netflix / 2024年)では、亡くなった恋人の心臓を移植された男性とヒロインが恋に落ちる。岡田がセルフリメイクをした『南くんが恋人!?』(テレビ朝日系 / 2024年)は、原作漫画とは異なり、小さくなった南くんがすでに現実では亡くなっていたことが明らかになる。いずれも、どうにも覆せない運命の中で、若者たちが「大切な人の死」とどう向き合うか、その過程を丁寧に描いたドラマだった。
これまでの『最後から二番目の恋』の世界にも「死」は静かに存在していた。事故で妻を亡くした和平と、母を亡くしたえりな。深刻な持病を抱える真平と彼を見守る家族にとっても、「死」は日常の隣り合わせだった。そして、本作『続・続』では、千明が長年敵視していた「アホ部長」と和平の同期がある日、突然亡くなったことで、59歳の千明と63歳の和平にとって「死」は一層、身近に迫ってきたのである。第1話で触れられたコロナ禍のシーンも、その死の身近さをより強く思い起こさせた。
『最後から二番目の恋』は、変わることの切なさを描くのと同時に、誰もが変わりゆく存在であることを柔らかに肯定する。変化は時に切なさを伴う。もしかしたら、変わらない方が、同じ場所にいる方が、ずっと楽で幸せなのかもしれない。変化することで大きな失敗をするかもしれない。たとえそうだとしても『最後から二番目の恋』は、その場に留まれず、やがて歩み始める人たちを否定しないのだ。
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えりなによる海ゴミアートが肯定するもの

たとえば長年、家にひきこもっていた万理子は、千明に声をかけられ、テレビドラマ業界に飛び込んだ。千明と恋愛関係になれなくても、せめて仕事では繋がりたい——そんな一途な思いから始めた脚本の仕事は、いつしか本業に。今では千明専属の売れっ子脚本家になっている。だが、千明が描きたい世界を実現することに心血を注いできた万理子にも、『続・続』で変化が訪れる。脚本家として描きたいことがなくても惨めに感じたことはなく、むしろ千明が作り出す世界の一部になれることが誇らしかった万理子。だが、第4話でこぼれ落ちた原因不明の涙は、いつしか芽生えたクリエイターとしての衝動と千明から離れたくない寂しさとの狭間で揺れる葛藤そのものだった。名プロデューサー千秋に「成長してるんだよ」と背中を押された万理子は、いつかの「心の成人式」に向かって歩み始めた。

かつては思春期の真っ只中にいたえりなも、『続・続』では24歳。第5話で父・和平を「かわいいな」「人としては好きだな」と語っていたことも微笑ましい変化だ。真平のカフェ・ナガクラを手伝うえりなは、美大を卒業した後、海ゴミアートクリエイターとしても活動している。一度は役目を終え、鎌倉の海に流れ着いた「海ゴミ」たちを拾い上げ、美しいアートへと生まれ変わらせる彼女の営みもまた、「変わりゆくこと」への静かな肯定に見える。そんなえりなの姿は、人生の後半に差し掛かった大人たちの物語の中で一際まぶしく、希望のようにも映るのだ。
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千明と和平のように歳を重ねる自分を肯定するために

「どんな形であれ、ずっと生きていくんでしょ、私とあなたは」と言えるような人にふたたび出会った和平が、今も亡き妻の日課だった桜貝を集めつづけているエピソードも、シリーズ全体で描かれる「変化への肯定」の一つの形だと思う。カフェ・ナガクラの看板を桜貝で飾り、亡き妻のやりたかったことは『続』で成就したが、本作でも和平はつい桜貝を集めてしまう。たとえ新しい恋をしても大切な想いは消えない、無かったことにはならないというメッセージは、変化を恐れる私たちの心に何よりも強く響くのではないだろうか。
「さみしくない大人なんていない。大人は自分の時間が有限なことも、今から大きな素晴らしいことが起きないことも、知っているから。そして、歳を取ればとるほど、こんなに頑張って生きてきたのに、なんでこんなに社会に大切にされないんだろうと、生まれてきて、やがて老いていくことは、なんて切ないことなんだろうと思っているから」 第1話の冒頭で千明の独白は「でも、こうも思うのだ……」と続くのだが、特にこの部分が心に沁みた。コロナ禍なども挟んで、きっと今は、11年前よりも大変な時代なのだと思う。その中で、変化を少しずつでも、受け入れられるようになったなら。千明と和平のように歳を重ねたいつかの自分のことも、肯定できる日が来るような気がする。
『続・続・最後から二番目の恋』

フジテレビ系にて毎週月曜よる9時から放送中
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/nibanmeno_koi/