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第二の人生へと進もうとする啓子を祝福する“ダンスに間に合う”

“千明にならなかった女性”として、私がもう一人、気になった存在が、千明の友人・啓子(森口博子)だ。出版業界に勤める啓子は、テレビ業界の千明や音楽業界の祥子(渡辺真起子)とともに、オシャレなお店で女子会を楽しむ独身仲間である。華やかな業界だが、不景気で出版社も厳しい状況。啓子曰く、売り上げが好調なコミックの部署の前を通る際は、つい拝んでしまうらしい。
『続・続』の第8話で彼女の話を聴く前までは、千明と同じ独身で仕事人間――そんなふうに思っていた。しかし、第8話で、啓子は定年で会社を辞めようとしていると、千明たちに打ち明ける。啓子は『続』で名古屋への転勤したのだが、あの名古屋こそ、自分のキャリアの最終地点だったと涙ながらに語るのだ。
現実には、啓子のような人のほうがずっと多いのではないだろうか。千明や祥子のようにバリバリ働き、然るべき地位まで辿り着けるのは、ごく一部の人間だけだ。女性ならば、なおさら。先の見えない時代、キャリアに限界を感じながら働く人は多い。だが、ドラマなどでは、なかなか取り上げられなかった人たちだ。だからこそ、啓子のようなキャラクターが令和7年のドラマで描かれた意味は大きい。
今の仕事を辞めた後のことは、啓子自身にもわからない。ただ、生活のために働かなくてはいけないことだけは確かだ。不安は尽きない。けれど、「友達でいてね」と涙ぐむ啓子を抱きしめる千明と祥子、そこに生バンドで流れる思い出野郎Aチーム“ダンスに間に合う”は、第二の人生へと進もうとする啓子を祝福するかのように響き渡っていた。