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踏み込みが足りなかった『MUSIC LOVES ART 2024 – MICUSRAT(マイクスラット)-』
万博を契機とした芸術文化関係者と関西政財界の橋渡し的役割を担っている市内での展示は、正直に言って面白味に欠ける。『六甲ミーツーアート』で芸術散歩公募大賞準グランプリを受賞した鐡羅佑の巨大なサンショウウオ彫刻や、中国留学経験をもつ太谷陽一郎の漢字をモチーフとするペインティングからは、現代的な都市文化とは異なる世界からやって来た異物としての存在感を読み取れる予感もあったが、キュレーションの踏み込みが物足りず、穏当だ。
純粋に作品として見応えがあるのは、REMAの砂を圧縮させたようなハート型の彫刻『The Ecosystem of Love from That Time.』。作家自身が抱く装飾へのオブセッションやジェンダー意識を反映したREMAの作品は、身体の隠喩としてもとらえられる彫刻の表面にトライバルタトゥーのような紋様や文字を刻み込んでいる。
また、FRP(繊維強化プロスチック)でつくられたとおぼしき台座のところどころには大きな穴が穿たれ、鑑賞植物が縦横無人に繁茂している。肉体なのか、皮膚なのか? 台座なのか、植木鉢なのか? 認知を撹乱させる多面性は、歴史的に男性性が際立つ彫刻のマッチョな物質性を批評するようで、見る者の思考を刺激する。こういった知的で遊戯的な体験が得られなければ、アートは面白くならない。
同作が展示された日本生命淀屋橋ビル地下1階サンクンガーデンに常設されたアントニー・ゴームリーの人体彫刻との対比も興味深い。世界的に著名な彫刻家の作品が、サンクンガーデンの端っこに地味に置かれている。これは施設利用者の安全性を考慮してのことだと思うが、その折衷的な姿勢はいかにも日本的だ。
『サマソニ大阪』会場である万博記念公園では、久保寛子、奥中章人、GOMAの作品が設置されている。ミュージシャンでもあり、本企画の目玉としてドローンを用いたパフォーマンスも行ったGOMAを除けば、久保の女性の手を模した立体作品のコンセプトは万博記念公園や『サマソニ』の文脈から遠く切り離されているし、奥中のバルーンインスタレーションはフェスの多幸感を演出するアクティビティ以上のものではない。
また、そもそも匿名の作り手のインスタレーションや造作物があちこちに設置されたフェス会場で、これらの作品を特権的に「アートである」と強弁することもできないだろう。残念ながら「MUSIC LOVES ART」と宣言できるほど、ここではアートは音楽から愛されていない。あるいは音楽から愛される状況を生むことに、本企画のキュレーターや文化庁はそれほど興味を持っていないのではないか、と疑問に思う。
GOMAのパフォーマンスにしても、ドローンに花火を装着して点火する日本初の試みが熱心にアピールされていたが、それよりもパフォーマンス後に空に描かれた関西経済連合会と文化庁のロゴの完成度の高さが印象に残っているのは皮肉だ。日本と比べて中国や米国で何十歩も先に進んでいるドローンパフォーマンスであるからこそ、ここでは立体的な空間(=空中)を用いた動く彫刻の一ジャンルとして定義するだとか、公共性に紐づいたパブリックアートの新しい提案として意味付ける、といった批評的なアチチュードを示すこともできたのではないだろうか?