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マームとジプシー藤田貴大が語る、演劇の潮目。演劇は不要不急ではなく、生きる営み

2025.4.28

#STAGE

「それでもやっぱり世界が変わることを期待している」

─マームの作品を観ていると、「どう忘れないか」ということを考えます。それは頭だけで忘れないのではなく、自分の身体を通して覚えておくにはどうしたらいいかということで、もっと具体的に言うと「どう自分ごとにするのか」ということでもある気がします。たとえば沖縄戦のことも、パレスチナやウクライナのことも、そこに痛みがあることを事実として知っている人はたくさんいると思います。けれどどこで自分の痛みと重なり合うかというのは、それぞれの人が自分の人生のなかで見つけていくしかない。藤田さんは「なにも終わってないのだから、自分も忘れない」ことを、一人ひとりとどう近づけるか実践している感じがします。

藤田:終わりって、物語のなかにしかないんじゃないかと思います。そして物語が終わっても、誰もなにも終わっていないと思う。『Curtain Call』の終演を迎えた後だって、観客にも俳優にもスタッフにも、人生が続いていくわけで。だから幕を下ろした後、「これがどこまで地続きでいけるだろうか?」ということがすごく重要だと思っています。

僕は文筆の仕事をすることもあって、本の形になることで、誰かの本棚に潜り込める興奮はあるんですけど、これはやっぱり自分の扱うジャンルじゃないなと思うんです。演劇は本棚には入れませんが、終演後の一人ひとりの余韻のなかに、自分の言葉が残ります。その言葉がいつか消えるのだということも含めてどうデザインするかというようなことが、演劇をやっていて一番面白いんですよね。とはいえ、「どこまで僕の言葉は残りますか?」なんて人に聞くのは、本当に気持ち悪いと思いますが……(笑)。でも、残るかもしれないというその微妙なところを期待しているところがある。

演劇をやることはある種、社会活動でもある気がしています。「どこの政党に入れてほしい」とか「選挙に行こう」みたいなことを作品で言わなかったとしても……まあ、選挙には行ってほしいんだけど、とにかくそういう具体的なメッセージじゃなかったとしても、マームとジプシーの演劇を観たこと自体がその人にとっての社会活動であってほしいと思うんです。だって、観に来たということだけで、外側と関わってくれたということだから。僕の言葉に触れてくれたということは、今朝とは違う状態であるということ。そこに期待を持って、言葉を書いたり演出したりしないと、と思っています。

─選挙の話もありましたが、藤田さんは劇団の旗揚げの初期の頃から、戦争や事件など、個人的かつ社会的にも共有された痛みについて作品で取り上げていますよね。作り手として、それを続けている理由も最後にお聞きしたいです。

藤田:この間、(クリエイティブディレクターの)小池一子さんが『日曜美術館』で、「生活を丁寧に続けることも、もしかしたらレジスタンスかもしれない」とおっしゃっていてそれがしっくりきたんです。僕自身にも、生活をきちんとやることが社会活動であるとか、それをおろそかにしなくちゃいけない事態が訪れたらおかしいだろうという感覚がある。

マームとジプシーの公演を、5500円とか6000円とか払って、予約してくれる人がいますよね。それってもちろんうれしいことなのですが、うれしい反面、自分はそういう人間ではないので驚きもある。ご飯で考えると、5500円や6000円って結構、いやかなり高いディナーですよね。2ヶ月先の約束のためにそれを支払うって、なんというか異様と言っていいほどすごいことだと思うんです。

その気がある人がこんなにいるということに対して、僕はどこかでやっぱりまだ世界が変わると思っているんですよね。作家に限らず、世界は変わらないと思っている人って、案外多いと感じます。2011年には大きな震災があって、戦争もあって、コロナ禍もあって、僕らは意外と激動の時代を生きているじゃないですか。生きるっていうのは常にそういうことなのかなとも思いつつ、ですが。

4月で40歳になるのですが、「自分がなにをやっても世界は変わるわけがない」という世界認識に立ってものをつくっている人が一定数いることもわかってきました。けれど僕はちょっと逆で、それでもやっぱり世界が変わることを期待しているんだと思います。わかりやすく社会派演劇のようなことをやっているわけではないんだけれど、僕の作品がこの世界の片隅にあることで、そこに来た1000人ぐらいの人たちの明日が変わるかもしれない。あからさまに現政権が崩れるようなことはなかったとしても、ちょっとは絶対、なにかが変わる気がしている。たとえばオンラインショッピングの画面を見ていた人の60分が、また別の違う時間に変わる可能性がある。使おうとしていたお金で、沖縄に行ってみようかなと思うきっかけになるかもしれない。次回もまた、マームとジプシーに5500円や6000円を使ってもらわなくても本当にいいんです。その5500円をもっと大事ななにか別のことに使う豊かさがもちろんあり得るから。そんなことをすごく考えるんですよね。そういうことを、期待しているんです。

マームとジプシー『Curtain Call』

作・演出 藤田貴大
出演:青柳いづみ 石井亮介 渋谷采郁 成田亜佑美 長谷川七虹

日程:2025年5月8日(木)-5月11日(日)
5月8日(木)19:00
5月9日(金)19:00
5月10日(土)14:00/18:00
5月11日(日)14:00

会場:LUMINE0
〒151-0051 東京都渋谷区千駄ケ谷5丁目24-55 NEWoMan Shinjuku 5F
※チケットは全席完売。今後、席の調整ができた場合は、改めてマームとジプシーのHPやSNSなどで発表される予定。

公式サイト:http://mum-gypsy.com/

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