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AIでの創作について、2024年時点で考えていたこと
―今回、「AI」というのもアルバムを語るうえでひとつの大きなポイントですよね。その象徴のように4つの“A I s u g g e s t i ∞ n”というインタールード的なトラックが収められていて。結果としてかなり特殊な構成のアルバムになっていると思うんですけど、このアイデアはどういったところから出てきたんですか?
Mom:アルバムを半分くらい作った頃に「もっと音楽アルバムとして面白い試みができたらいいな」と思って、「だったらAIでしょ」となったんです(笑)。2024年は結構、AIの年だったと思っていて。アルバムではChatGPTとかを使っているんですけど、一般の人がそういうものを日常的に使えるようになった年だったなと。音楽アプリでもSuno AIみたいなのが出てきたし。Suno AIも今回ちょっと使ってて、“ティーンエイジ≠ネイション”は一瞬スキットみたいなので始まるんですけど、あれはSuno AI。他にも、これはサンプリングと要領は一緒だけど、AIで作ったトラックからサックスの音を抽出して使っていたり。“A I s u g g e s t i ∞ n”のスキットの後ろで流れている音もAIで作りましたね。
AIの音を混ぜることで明確に着地させたいポイントがあったわけではないんだけど、「なにかマジックが起こるんじゃないか?」というのがあったんです。“A I s u g g e s t i ∞ n”で言っていることも、聴く人の状況によってはありがたい言葉だろうけど、状況次第では鬱陶しい言葉だろうし。AIが完全に自分の歌と溶け込むのか、溶け切らないまま異物感が残るのかっていうのも試してみたかった。
―最初に言っていた歌の連続性の部分ですよね。このアルバムでAIに対してジャッジを下そうというよりは、「今」という時代を歌で捉えようとしたとき、そこにAIがあった。
Mom:そう、今はまだAIを巡る議論は鉄が熱い状態だと思うけど、その間に現象としてアルバムに反映させたいな思って。僕自身、人がAIを求める流れになることに納得はあったんですよ。それで「どんな感じなんだろう?」と思ってSuno AIをいじってみたけど、めちゃくちゃ技巧的だし、「CMソングとかは、これでやれちゃうじゃん」と思った。もちろん倫理的に問題視されている部分があることもわかるから、僕自身、AIがいいものか悪いものかはこのアルバムでは判断していないし、正直、そこはまだわからない。でも、こういうものが出てきた以上、人はそれを使っていくと思うんですよ。その上でクリアしていかなきゃいけない問題があるっていうだけで。

―これはすごく気になっていた部分なんですけど、“A I s u g g e s t i ∞ n”の声を子どもの声にしたのは何故だったんですか?
Mom:いろいろ試したんです。成人男性っぽい声、成人女性っぽい声、アナウンサーみたいにカチッとした口調、くだけた口調……。今のAIのイントネーションって不自然ではあるじゃないですか。その不自然さが際立つ形でもよかったんだけど、いろいろ試している中で、子どもの声で再生したとき、人によっては「本当に人間の子どもが喋っているんじゃないか?」と思うかもしれないくらいリアルだったんです。
―僕は最初そう思いました。
Mom:思いますよね。そこまで深い批評性を込めたわけではないけど、2024年のAIの、技術としての途中段階感みたいなものと、子どもの声が合っていたのかもしれないし。同時に、今後AI技術はよりブラッシュアップされて、生活の中で自然と目にする機会は増えていく予感はあるじゃないですか。子どもの声にしたことで、自然とそこも示唆的に聞こえるようになったのかもしれない。僕がSF頭なだけかもしれないけど(笑)、子どもの声ってどうしても示唆的に聞こえちゃうし、恐怖や不安感も募らせる、一番気持ちを揺さぶられるものなんですよね。