INDEX
メイ・シモネスが日本語と英語をミックスして歌う理由
─“Hfoas”を発表したのが2020年の3月だから、作曲したのはバークリー時代ですよね。具体的にどういう変化があり、どういうミックスが自分のなかで行われたんでしょう?
メイ:“Hfoas”は、実は歌う曲にするつもりじゃなかったんです。ジャズスタンダードっぽい曲を作りたいと思って書き始めたので。“Nardis”(1958年)っていうマイルス・デイヴィスの曲のコードにインスパイアされたんです。
コードとメロディーをギターでは同時に弾けないから、メロディーを歌ってコードを弾いてたんですけど、「あ、これは歌う曲にしよう」って決めたんです。それで曲にジャズの影響が入ってきてるんだと思います。
─でも、そこで歌詞を日本語にしよう、となったのも、結構なジャンプですよね。
メイ:うん。それも特にきっかけとかはなかったと思います。なんとなく「日本語で書いてみようかな」って思っただけ(笑)。
─“Hfoas”や“kabutomushi”を初めて聴いたとき、日本語で歌っている驚きもあったけど、ブラジルのシンガーみたいな歌い方にも惹かれました。ブラジル音楽の影響も大きい?
メイ:はい。すごく好きです。特にジョアン・ジルベルトとか、よく聴いているので影響がありますね。私は普段は歌が入ってない音楽をほとんど聴いてるんです。
歌のある音楽は、ジョアン・ジルベルト、チェット・ベイカー、ビリー・ホリデイ、エラ・フィッツジェラルドくらいしか聴いてない。そのなかでも、ジルベルトとチェット・ベイカーに一番影響を受けていると思います。
─ブラジル音楽にメイさんが惹かれるのは、どういうところだと思います?
メイ:聴いてて気持ちいいとか、悲しいときに聴くとうれしい気持ちになるとか、落ち着くとか。
─ジャズのスタンダードソングというのは、すでに作詞作曲されている名曲にシンガーたちが自分の気持ちを託して歌いますよね。メイさんはシンガーソングライターなので、自分の気持ちを歌詞で表現することができる。日本語で歌詞を書くときも、それは意識していますか?
メイ:どうだろう? 自然と出てきた言葉だとは思うけれど、日本語で歌詞を書くのは初期より今はもうちょっと上手になっているとは思いたい(笑)。最初は、もうちょっと考えなければ歌詞が書けなかったと思います。
─“kabutomushi”が日本に伝わったときに、音楽好きの人たちはざわっとなったんです。すごく面白い言葉のセンスだし、日米のミックスだから日本語と英語を混ぜて歌ってるってだけじゃなくて、目の前にあるものや、ふとした思いをパッとつかんで音楽にできるタイプの人なんじゃないかとも思ったんです。
メイ:頭に浮かんできた言葉を書いた感じです。
─日本語の曲を発表したときの周囲の反応は?
メイ:特にそんなに言われなかったかなあ(笑)。友達には「いい曲だね」って言われた。
─日本語とか英語とかを気にした人もいなかった?
メイ:いなかったですね。
─そこが自然に受け入れられたので、特に異言語であることを強く意識せずに自分のメソッドにできたのかも。
メイ:そうですね。やっぱり私は生まれたときから日本語と英語の両方の言語でしゃべってるので、音楽も両方使ったほうが自分だし。父には「アメリカで音楽を作りたいのなら、日本語は入れないほうがいいんじゃないか?」って言われたこともあるけれど、今は(日本語を)入れてよかったなってきっと思ってるはず。それによって私しか作れない音楽ができているから。
─メイさんにはお父さんが言っていたことの意味もわかる?
メイ:わかります。でも、例えば私はブラジル音楽が大好きだけど、ポルトガル語の歌詞で言ってることはわからない。それでも大好きだし、気持ちは伝わってくると思う。言葉より音楽のほうが大事だって思ってるから、日本語じゃわからないって言われても「え~、違うよ」って感じであまり気にしてなかったですね。