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「ウケたい」だけではない。芸人・又吉直樹の原動力とは
北沢:又吉さんもおっしゃっていましたけど、エノケンさんが晩年に右足を失ったというのも、人生における大きなポイントですよね。それほどの悲劇に見舞われてもまだ喜劇をやりたいという恐るべき執念をもっていたわけで、それはどういう思いだったのかな、と想像するんです。
又吉:それはおそらく、エノケンさんのストロングポイントが身体能力の高さだったことが大きいかと僕は思いますね。もともと体操選手でもできないような動きができたっていう話とか、走っている車から別の走っている車に飛び移れたって話が残っていますから。
エノケンさんは周囲から身体能力の高さを期待されていた部分もあったと思うので、だからこそ右足を失うことが、もしかしたら静かに喋る芸風の芸人よりもしんどいことだったと思う。むしろそれゆえに、身体的な表現にこだわった部分はあるんじゃないかと。動ける、走れるってことをちゃんとお客さんに見せたいという気持ちがあったんじゃないかな。
北沢:又吉さんにとって、「今の自分がここを失ったらつらい」と思う部分ってありますか?
又吉:なんだろうな……人前で「ウケたい」っていう気持ちですかね。僕が大人しくしているときって、「ウケたいと思っていない」のではなくて、我慢しているんです。ウケたいけど、理性で抑えている(笑)。むしろプライベートではほとんど普通のことは言わないし、ずっと変なことしか言ってないです。

又吉:でもこれは芸人になって勉強になったことですけど、ずっと変なことを言っていると、狂っていると思われるんですよ。僕、デビューしたての頃は漫才の冒頭の挨拶すら、まともなことを言わずに最初から変なことを言っていて。
北沢:それは自分に課していたんですか?
又吉:いや、それが普通やと思っていたんです。でも先輩に、常にボケているとお客さんも怖がるし、意味がわからなすぎるから、最初の挨拶はちゃんとして「常識を持っている」って理解してもらえないとボケとして成立しない、と言われて。
なるほどと思って、ふざけるところと、ふざけないところを分けるようになったんですけど、その根底には笑かしたいとか、面白いと思われたいとか、そういう欲求みたいなのがあるんですよね。
それがあれば、そのまま創作意欲につながっていくのかなと思うんですけど……でもしゃべりながら、どうなんかな……いや、「ウケたい」って気持ちがなくても自動的に変なことを言い続ける、もう病気みたいな欲求はあるのかなあ(笑)……面白いと思われたいっていうよりは、「言いたい」「やりたい」って衝動のほうが原動力かもしれないですね。

音楽劇『エノケン』

2025年10月7日(火)〜26日(日)
会場:東京都 日比谷シアタークリエ
キャスト:
市村正親:榎本健一(エノケン)
松雪泰子:花島喜世子・榎本よしゑ(妻2役)
本田響矢:榎本鍈一(息子)・田島太一(劇団員)
豊原功補:菊谷榮(劇作家)
ほか
作:又吉直樹
演出:シライケイタ
11月1日(土)〜9日(日)
会場:大阪府 COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
2025年11月15日(土)、16日(日)
会場:佐賀県 鳥栖市民文化会館 大ホール
2025年11月22日(土)~24日(月・祝)
会場:愛知県 名古屋文理大学文化フォーラム(稲沢市民会館)大ホール
2025年11月28日(金)~30日(日)
会場:埼玉県 ウェスタ川越 大ホール
https://enoken-stage.jp