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又吉直樹が語る、日本の喜劇王・エノケン。芸人の身体性、コメディーとコントの違い

2025.8.25

#STAGE

又吉直樹が「喜劇」を手がけるにあたって考えた「芸人の身体性」

北沢:コメディー(喜劇)とコントの違いっていうのは、又吉さんのなかで何かはっきりとした区別はありますか?

又吉:なんとなく「時間」という要素はひとつありますかね。コメディーは実尺でいうと20〜30分は割く必要がありますけど、現代のテレビで披露されているコントはだいたい4分とか5分ですよね。劇場とかでは長いコントも観られますけど。

物語の起承転結や起伏、展開はもちろんありつつも、ボケの密集度が高くて、より「笑えること」にコミットしたのが現代のコントで、もうちょっと物語に寄っていて、演者の数も多いのがコメディー、というのが僕の理解ですね。

北沢:コメディーはコントの延長線上にあるというよりは、時間というものの働きをどう捉えるかで異なる、という解釈ですか?

又吉:そうですね。どちらかというとコメディーを細分化して名場面を切り取って、さらに笑いに特化したものがコントなんじゃないかなという感覚です。

北沢:僕が初めて又吉さんの『東京百景』(2013年、ヨシモトブックス / 2020年、角川文庫)を読ませていただいたとき、これはエッセイなのか、それともコントの延長なのか、途中で判別できなくなるような読み口だと思ったんです。

しかもかなりシュールな要素もあって、「笑い」の感覚が更新され続けてきた歴史をさらに進化させて、その先を作ろうとしているような実験性を感じました。一方で戦前の喜劇人たちは自分の内面を掘り下げるというよりは、すごく身体性で笑わせようという感じが強いですよね。エノケンさんの場合は特に。

又吉:まさにそうですね。正直、今の年齢になって感じるのは、身体性を通じた笑いこそが「王道」、「本道」ということです。

ただ1980年生まれの僕にとっては、「漫才ブーム」(※)があって、1990年代にダウンタウンさんたちが出てきて、という系譜こそが「お笑いの本流」やと思って見てきたんですよね。だからテキストではない、言語を超えた身体表現というものが正直に言うと古く感じていた時期もありました。

※北沢注:ピークは1980~82年。座付き作家が書いた台本を漫才師が演じる伝統的な「掛け合い漫才」のスタイルを破壊した、B&B、ツービート、島田紳助・松本竜介、ザ・ぼんちをはじめとする若手コンビが一気に台頭。自作のスピーディーなギャグを台本なしで連発する「漫才と似て非なる新しい会話芸」が、従来の客層にいなかった若い世代を中心に爆発的な人気を集め、あらゆるメディアを席巻した結果、芸人の認知度も著しく向上した

又吉:僕は製作発表でエノケンさんのことを「芸人」と表現しましたけど、エノケンさんを演じられる市村正親さんは「喜劇役者」とおっしゃっていましたよね。僕から見たら「芸人」と言って差し支えがない活動にも見えるけど、エノケンさんは間違いなく「役者」ですよね。

北沢:まさに「喜劇役者」という呼称が一番フィットしますね。

又吉:それが日本において細分化していったのが、だいたい1970〜80年代。その結果、明確に笑いに特化した「お笑い芸人」というものになった。

言ってしまえば、「お笑い」において演技力さえも無視されていた時代もあると思うんです。一時期は、面白いことが言えたらそれでいい、みたいな空気感さえあった。でもコントにしろ演劇にしろ、面白いことを言うだけで成立するお笑いというのは本来そんなにないですよね。

だからこそ身体的な表現であったり、言葉ひとつに自分の人間性を反映させていたりといった、身体と言葉が一致している人や芸が時代を経ても評価されて残っているんじゃないかなと思います。

又吉:時代ごとの流行りとか、形式やシステムみたいなものはあるにせよ、面白いものというのは肉体から逃れられないし、本質的にそこは変わらずにあったんじゃないかなと今は思います。

北沢:それは特に舞台において顕著ですよね。テレビや映画作品と違って、舞台だと本当に生だから、お客さんはやっぱり役者の動き、身体から発せられるエネルギーを一番受け取ると思います。

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