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本作は、人生の「劇的ではない時間」の重要性を映し出す
猛練習を猛練習としては見せない。日本語が流暢なわけではない韓国人留学生がTHE BLUE HEARTSを歌うのだからそれは大変だろう。だが、その大変さもデフォルメはしない。こんなに大変なことをしているんですよ、というような強調がここにはない。なぜなら、わたしたちには想像力があるし、思いやりもあるからだ。イマジン。『リンダ リンダ リンダ』というデリカシーは、観客のイマジンを信頼している。
かわりに疲れきって楽器を抱えたまま眠りこける少女たちを捉える。あろうことか、その時見た夢まで映像で見せる。猛特訓を猛特訓として劇的に「念を押す」のではなく、高校生活最後の文化祭の直前、疲れきって眠ってしまった彼女たちを凝視する。

そこにあるのは、大成功でも大失敗でもない時間だ。青春映画はとかく、高揚や挫折を、能天気に、そして郷愁と共に描きがちだが、もっと「なんでもない当たり前の時間」があったのではないか。過ぎ去ってしまって本当に惜しいのは、そのような「普通の時間」なのではないのか。むしろ、何も輝いてはいない「普通の時間」をたんまり大切に愛情を込めて描いているから、映画『リンダ リンダ リンダ』はまるで古くなっていない。
フィメールラッパーらの台頭もあり、20年前とは女性と音楽の隣接模様は様変わりした。だから、女子高生たちがTHE BLUE HEARTSを演奏するという行為にもはや新鮮さはないだろう。だが、見るべきはそこではない。青春期であってもなくても、2025年でも2005年でも、わたしたちの人生のほとんどは「劇的ではない時間」で占められており、そこにも重要なことはたくさんたくさんあるんだよ、というこの映画のフラットな示唆は、全く色褪せていないのである。
『リンダ リンダ リンダ 4K』

8月22日(金)より、新宿ピカデリー、渋谷シネクイントほか、全国ロードショー
監督:山下敦弘
脚本:向井康介、宮下和雅子、山下敦弘
出演:ペ・ドゥナ、前田亜季、香椎由宇、関根史織(Base Ball Bear)
音楽:James Iha
製作:「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ
配給:ビターズ・エンド
©「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ
https://www.bitters.co.jp/linda4k