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「相互理解の可能性」と「家族の形の多様性」
さらに、両作品には共通する重要なテーマがある。それは「未来への選択」にまつわる葛藤だ。『マルセル』では、祖母の「あの子は変化を恐れている。それでは人生は進まないわ」と語るように、主人公は仲間との再会を心から願っていると同時に、それによって今の生活を失いたくないという相反する気持ちもある。
一方、今回の『リロ&スティッチ』でも、ナニは最愛の妹であるリロとの生活を何より大切にしているが、リロのためにこそ、福祉に頼り彼女を手放すという選択肢も現実的に浮上してくる。
彼女たちがどのような選択をするのかは、映画で確認してほしいが、どちらの作品でも「より良い選択」の根底には、大切な家族の本当の気持ちを思いやるという尊い意志がある。

また、『マルセル』では映像作家の青年の言葉が、『リロ&スティッチ』ではスティッチの存在が、それぞれ「選択」へのきっかけを与えてくれる。こうして第三者の存在が重要な影響を持つことは、物語の定番といえるが、実際私たちも身に覚えがあるだろう。その上で、決して型通りではない、理想的な家族のあり方の一例を示している。

総じて、実写版『リロ&スティッチ』は、誰もが楽しめるエンターテインメントでありながら、現代においてより重要性を増した「相互理解の可能性」や「家族の形の多様性」を丁寧に描いた、メッセージ性の強い秀作となっている。
特にクライマックスでの、ニナの選択とリロの言葉からは、その意志を強く感じられるだろう。オリジナルの精神性を真摯に引き継いだリメイクとして、両作の違いも楽しみながら鑑賞してほしい。

『リロ&スティッチ』

6月6日(金)全国公開
原題:Lilo & Stitch
監督:ディーン・フライシャー・キャンプ
キャスト:クリス・サンダース(スティッチ役)/マイア・ケアロハ(リロ役)
オリジナル・サウンドトラック:ウォルト・ディズニー・レコード
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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公式サイト:https://www.disney.co.jp/movie/lilo-stitch