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『マルセル』の監督を起用した慧眼
本作が素晴らしい作品となったのは、監督の手腕によるところも大きいだろう。あるいは、『マルセル 靴をはいた小さな貝』で第95回アカデミー賞・長編アニメーション賞にノミネートされたディーン・フライシャー・キャンプ監督を起用したこと自体が、本作の魅力と言えるかもしれない。
インディペンデント出身の監督が大作を手がける例は増えているが、その中でも今回の『リロ&スティッチ』のように、物語と作品の精神性が、ここまで監督のオリジナル作品と「一致」している例は、なかなかないだろう。
『マルセル』のあらすじは、祖母とふたり暮らしをしている小さな貝・マルセルを追うドキュメンタリーを、映像作家の青年が制作するというもの。
おしゃべりなマルセルがとにかく健気でかわいらしく、ジブリ作品の『借りぐらしのアリエッティ』のように「人間の一軒家の中で小さな生き物が生活していくための工夫」が見えてくるのが楽しい。SNSやテレビ番組の取材を通じて、はぐれた仲間を探す過程がリアルに描かれている点も興味深い作品だ。
『マルセル』と『リロ&スティッチ』で共通しているのは、共に「2人暮らしの家族」を追った作品であることだ。しかも、自分とは異なる存在への理解を試みる過程や、平気なふりをしているようで実は孤独や不安を抱えている心理もほぼ一致している。
『マルセル』で見られた皮肉混じりのユーモアセンスや、家の中の「生活感」のある美術描写、実写とアニメ(前者はストップモーションで後者は3DCG)を違和感なく融合させた表現、さらにはユニークなアクション描写も、本作に存分に受け継がれている。
