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ドラマ『クジャクのダンス、誰が見た?』が描き続けた「親と子の物語」

2025.3.28

#MOVIE

©TBSスパークル/TBS
©TBSスパークル/TBS

浅見理都による大人気漫画を原作としたヒューマンクライムサスペンスドラマ『クジャクのダンス、誰が見た?』(TBS系)が最終回を迎える。

毎話のように明かされる新たな真相を知るにつれ、先の記事でも紹介した、出演者も巻き込んでの視聴者たちの考察合戦はさらに熱を帯びていっている。

大学生・山下心麦(広瀬すず)と弁護士・松風義輝(松山ケンイチ)による名バディっぷりも魅力となっているが、プロデューサーが、ヒューマンドラマであり、「最愛の家族」についての物語と語った本作について、毎クール必ず20本以上は視聴するドラマウォッチャー・明日菜子がレビューする。

※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

原作漫画完結後も白熱する視聴者による考察合戦

第9話のラストに山下心麦(広瀬すず)にとっても驚きの光景が©TBSスパークル/TBS
第9話のラストに山下心麦(広瀬すず)にとっても驚きの光景が©TBSスパークル/TBS

週末の夜をざわつかせているドラマ『クジャクのダンス、誰が見た?』(TBS系)がいよいよ最終回を迎える。浅見理都による原作漫画は、ドラマ放送中の2025年2月に完結しており、最終巻は3月13日に発売された。すでに原作で答えが明かされているため、毎回のようにSNSで交わされるドラマ考察の勢いも止まってしまうのではないかと懸念していたが、視聴者による考察合戦は3月14日放送の第8話以降も白熱している。むしろ、終盤に差し掛かった8話と9話のラストで思わず「えっ」と声が出てしまうような新たな真実が明かされ、最終回直前の今も、我々視聴者は翻弄されっぱなしだ。

心麦の出生の秘密とカラビナ男の正体が明らかになった第9話

事件の鍵を握っていた弁護士・鳴川徹(間宮啓行)©TBSスパークル/TBS
事件の鍵を握っていた弁護士・鳴川徹(間宮啓行)©TBSスパークル/TBS

クリスマスイブの夜、元警察官の父・山下春生(リリー・フランキー)を殺された心麦(広瀬すず)。犯人として逮捕されたのは、林川一家6人が殺害された東賀山事件の犯人として死刑判決が下った遠藤力郎(酒向芳)の息子・友哉(成田凌)。しかし、亡くなった春生からの手紙には、友哉は冤罪だと記されていた。心麦は同じく手紙に名前があった弁護士の松風義輝(松山ケンイチ)と共に、春生殺害の真犯人を探すと同時に、父が志半ばで辿りつけなかった東賀山事件の真相を追い求める。

あらためて第9話までの内容を整理してみよう。まず、視聴者の多くが、二つの事件の真相と共に気になっていたのが、心麦の出生の秘密である。亡き父のために、クジャクが潜むジャングルへ足を踏み入れる覚悟を決めた心麦だが、週刊誌記者・神井孝(磯村勇斗)がかねてより匂わせていた通り、春生の実の娘ではなかった。心麦の正体は、東賀山事件唯一の生き残りである林川歌だったのだ。

第1話から姿は現していたものの正体は明かされていなかった怪しい青いカラビナをつけたリュックの男は、第6話で心麦たちの前に現れた弁護士・鳴川徹(間宮啓行)だった。鳴川は生前の春生が傍聴していた裁判を担当しており、心麦たちへの協力に名乗りをあげる。しかし、その正体は、春生の放火殺人事件の担当検事・阿南由紀(瀧内公美)の父親だったのだ。

かつて東賀山事件の担当検事であった鳴川。遠藤力郎に死刑判決が下り、世間を震撼させた事件にようやく決着がついた。娘の由紀は鳴川の背中を追うように検事になり、やがて東京地検本部係で女性初の検事に就任する。だがある日、春生が東賀山事件をふたたび調べていることを知った鳴川は、真実をくらませるためにさまざまな工作を重ねる。春生の手紙を預かったラーメン店店主・染田進(酒井敏也)を始末させ、林川歌の出生証明書を偽造した阿波山産婦人科医院に火をつけ、阿波山夫妻を殺害。心麦たちの協力者になったのは、東賀山事件の真相にどこまで迫っているかを調べるためだったのだ。

鳴川と由紀の関係が分かった先で気づかされたこと

心麦にとって第2の母親のような存在だった京子(西田尚美)©TBSスパークル/TBS
心麦にとって第2の母親のような存在だった京子(西田尚美)©TBSスパークル/TBS

そして、最終局面で一気に2つの事件の犯人候補に躍り出たのは、春生の部下であった刑事・赤沢正(藤本隆宏)の妻、京子(西田尚美)だ。昔から家族ぐるみの付き合いをしている京子は、心麦にとって、第2の母親のような存在だった。しかし、赤沢と共に心麦の出生の秘密を隠していた京子は、「林川歌だった過去はなかったことにしていいと思う」と心麦に伝える。さらに、警察官として大事な時期を迎える息子・守(野村康太)のためにも、このことは水に流してほしいと、1億円もの大金を心麦に渡そうとまでしたのだ。

京子の「事実をなかったことにしていい」という言葉には違和感があった。それは、本作のタイトルの意味である「たとえ目撃者がいなくても、犯した罪から逃げることはできない」から逸脱した考えであり、なによりも主人公・心麦のポリシーに反する。その違和感は的中し、第9話では、京子が心麦もとい林川歌の実母である可能性が浮上した。神井が機転を利かせて赤沢につけたGPSを頼りに心麦たちが林川家を訪れると、そこには、腹部を刺された赤沢と、血に濡れた包丁を手に呆然としている京子の姿があった。

鳴川と由紀の関係が明らかになった今では、本作がただ事件を解き明かすドラマというだけではなく、「父と子の物語」でもあったことに気づかされる。春生と心麦、力郎と友哉、鳴川と由紀、そして、東賀山事件の真実を明らかにするために久しぶりの再会を果たした松風と父・久世正勝(篠井英介)。殺された染田にもかつては家庭があり、息子がいた。

心麦は亡き父の意志を継ぎ、由紀は父親が憎いからこそ、実の娘である自分には、その背中を見届ける責任があると語った。松風と友哉は父親に人生を振り回された被害者とも言えるだろう。いわば「宿命」でもある父との対峙を、子どもたちは粛々と受け止めている姿が印象的だ。その対峙の果てにどんな答えを導き出すのか。心麦と母・京子、京子と守という二つの「母と子の物語」がどんな結末を迎えるかも注目したい。

互いを成長させた心麦と松風の関係性の変化

共に成長しながら深まっていった心麦と松風の関係性©TBSスパークル/TBS
共に成長しながら深まっていった心麦と松風の関係性©TBSスパークル/TBS

物語が進むにつれ、謎と共に深まっていったのは、主人公・心麦と松風の関係性だ。一弁護士とクライアントの大学生という関係から始まった二人は、ときに「保護者と子ども」のように見えることもあったが、今ではすっかり肩を並べる立派なバディである。「世界はそれを成長って呼ぶんですよ」と松風がどこか得意げな顔をしていたように、ラストスパートにかけての心麦の成長が目覚ましい。

春生が娘に託した想いは、あまりに重すぎるものだ。父を殺した真犯人と東賀山事件の真相を探しにクジャクの潜むジャングルへと足を踏み入れた心麦は、思わぬ形で他人を巻き込み、自分の出生の秘密までも知ってしまう。わずかな希望であった春生との関係が血縁的には無かったと明らかになったとき、その宿命を手放すことも出来たはずだ。けれど、彼女は前に進む。そんな心麦の強さは、自身の父親の存在に目を背けながら生きてきた松風の心をも変えた。京子から、過去のことは忘れたらいいと言われた時も、「でもそれは無理なんです。私が林川歌であることは、なくせませんから」と真っすぐに返した心麦の姿にはグッとくるものがあった。

第1話の「黒に染まったプリン」からの予兆

春生から心麦に受け継がれた技が松風にも受け継がれた©TBSスパークル/TBS
春生から心麦に受け継がれた技が松風にも受け継がれた©TBSスパークル/TBS

第1話にこんなシーンがあったのを覚えているだろうか。松風が美味しそうなプリンに不躾にコーヒーをかけて「こうなってしまっても、これは“プリン”と呼べるだろうか」と問いかけるシーンだ。心麦は少し戸惑いながらも、黒に染まったプリンを食べて、「これはプリンです」と言い切る。それは『クジャクのダンス、誰が見た?』のタイトルの由来でもある「目撃者がいなかったとしても、踊っていたクジャクの美しさに意味があるのか」という哲学的な問いに対して答えを提示したようだった。その覚悟に共鳴した松風は誓いを交わすかのように、残りのプリンを一気に掻き込んだ。これは原作にないドラマオリジナルの描写だが、心麦と松風がやがて「名バディ」へと成長する予兆を感じるシーンでもあった。 ここまで振り返ってはみたが、このドラマがどのような結末を迎えるのか、いまだ予想がつかないままでいる。願わくば、本作のように世知辛い世界にいる私たちが、少しでも明るい気持ちになれるようなドンデン返しを名バディに期待したい。

『クジャクのダンス、誰が見た?』

©TBSスパークル/TBS
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TBS系にて3月28日金曜よる10時から最終回放送
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/kujakunodance_tbs/

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