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鳴川と由紀の関係が分かった先で気づかされたこと

そして、最終局面で一気に2つの事件の犯人候補に躍り出たのは、春生の部下であった刑事・赤沢正(藤本隆宏)の妻、京子(西田尚美)だ。昔から家族ぐるみの付き合いをしている京子は、心麦にとって、第2の母親のような存在だった。しかし、赤沢と共に心麦の出生の秘密を隠していた京子は、「林川歌だった過去はなかったことにしていいと思う」と心麦に伝える。さらに、警察官として大事な時期を迎える息子・守(野村康太)のためにも、このことは水に流してほしいと、1億円もの大金を心麦に渡そうとまでしたのだ。
京子の「事実をなかったことにしていい」という言葉には違和感があった。それは、本作のタイトルの意味である「たとえ目撃者がいなくても、犯した罪から逃げることはできない」から逸脱した考えであり、なによりも主人公・心麦のポリシーに反する。その違和感は的中し、第9話では、京子が心麦もとい林川歌の実母である可能性が浮上した。神井が機転を利かせて赤沢につけたGPSを頼りに心麦たちが林川家を訪れると、そこには、腹部を刺された赤沢と、血に濡れた包丁を手に呆然としている京子の姿があった。
鳴川と由紀の関係が明らかになった今では、本作がただ事件を解き明かすドラマというだけではなく、「父と子の物語」でもあったことに気づかされる。春生と心麦、力郎と友哉、鳴川と由紀、そして、東賀山事件の真実を明らかにするために久しぶりの再会を果たした松風と父・久世正勝(篠井英介)。殺された染田にもかつては家庭があり、息子がいた。
心麦は亡き父の意志を継ぎ、由紀は父親が憎いからこそ、実の娘である自分には、その背中を見届ける責任があると語った。松風と友哉は父親に人生を振り回された被害者とも言えるだろう。いわば「宿命」でもある父との対峙を、子どもたちは粛々と受け止めている姿が印象的だ。その対峙の果てにどんな答えを導き出すのか。心麦と母・京子、京子と守という二つの「母と子の物語」がどんな結末を迎えるかも注目したい。