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「自分の中にあるイメージや景色を表現するための方法として、音楽がある」
―新作『500mm』はダンスミュージックがコンセプトになっていて、北村さんは現在asak名義でDJもやられていますが、ダンスミュージックにはいつ頃から傾倒するようになったのでしょうか?
北村:矢野さんを好きになったのもリズミカルなピアノが大きかったし、身体を動かして音楽を聴くこととか、踊ることは小さいときからずっと好きだったと思うんですよ。
ー小学生の頃は山で遊んでいたし、実は昔からフィジカル重視(笑)。
北村:そうかもしれないです(笑)。直接のきっかけはエマ・ジーン・サックレイ(Emma-Jean Thackray)っていうUKのアーティストで、そこからハウスミュージックを意識して聴くようになりました。
―エマ・ジーン・サックレイのライブに刺激を受けて、“ignorant bird”を作ったそうですね。
北村:2022年9月の来日公演を見に行きました。それまでは自分のライブパフォーマンスについて深く考えることがなかったんですけど、そのライブを見てからは自分もハウスの熱みたいなものを表現できるライブをやりたいと思うようになりました。
―北村さんの思うエマ・ジーン・サックレイの魅力は?
北村:ジャズの人で、トランぺッターでもあるのに、ダンスミュージックを取り入れてトラックメイクしたり、歌を歌ってDJもやったり、表現したいことが前に来ているところです。私はシーンとかジャンルはそんなに詳しくないんですけど、自分が表現したいことをまっすぐやっている人に影響を受けている気がして。エマさんも前提の知識がなくてもすごくかっこいいなと思えたので、めっちゃ好きになりました。それまでは弾き語りでしかライブをしてなかったんですけど、DTMの要素も取り入れてみようと思ったのは、エマさんの影響が大きいです。
―同期を用いた現在のライブのスタイルはいつからやっているのでしょうか?
北村:2023年の『フジロック』のためにあのスタイルを作りました。エマさんは今改めて聴くと生音がすごく強くて、自分もいつか生音でもやってみたいなと思うんですけど、最近はソフト上で作られているダンスミュージックをたくさん聴いています。
―新しいEPを作る上では、どんなアーティストから影響を受けましたか?
北村:今回のEPは全部ソフト上の音で作ったんですけど、フレッド・アゲイン(FRED AGAIN..)がすごく好きだったり、Four Tetも好きで聴いていました。あとはSkrillexとか、日本だとFellsiusさんっていう方のトラックメイクにめちゃくちゃ影響を受けていて、Tomgggさんも好きです。rei harakamiさんにも影響を受けています。聴いていて音が心地いいものが好きですね。
これまでのシングルはLogicで作っていたんですけど、今回の5曲は全部Ableton Liveで作ったんです。ダンスミュージックのアーティストはAbletonを使っている方が多くて、内蔵の音もめちゃくちゃかっこいいなと前から思っていたので、これを機に変えてみました。
―Abletonを使ったことが曲作りにはどう影響しましたか?
北村:Abletonはシンセの音が充実していて、それを波形で見れるんです。だからもうちょっと音のリリースを削りたいと思ったときに、「こういう仕組みでリリースって削られていたんだ」と視覚的にわかったのは大きかったと思います。一方Logicは生音が充実しているので、マリンバやバイオリンのピチカートの音とかを入れたいときはLogicで作っています。両方使えた方ができることが増えるので、今後も両方使っていきたいです。
―“eclipse”にはフルートが入っていますよね。
北村:あれは自分で吹きました。2023年の12月ぐらいに買って、まだそんなに上手くはないんですけど、ライブでやらないと絶対練習しないと思ったので、曲にしちゃおうって(笑)。

―興味を持ったら何でも自分でやってみる人なんですね(笑)。EPの最後の曲 “blue sight”は2023年の『フジロック』でも最後にやっていましたね。
北村:“blue sight”はYouTubeでたまたま見つけたモジュラーシンセの音がすごくいいなと思って、リフを作り始めた感じです。だから曲のイメージが先にあって、歌詞は自分の頭の中にある情景みたいなものを書きました。音源の編曲はライブバージョンと結構違うので、それも含めて楽しんでもらえればいいなと思います。
―「自分の頭の中の情景」というのは、具体的なイメージがあったのでしょうか?
北村:漠然としたゴールは決まっています。そのイメージに寄せて、本を読んで使えそうな言葉を探したり、好きな英詞を読んだりして作りました。
―いわゆるシンガーソングライター的な、「自分の経験や感情を曲にする」というより、自分の中の映像的なイメージを具現化したいという思いの方が強いのかもしれないですね。もちろんその背景にはパーソナリティも関係してはいると思うけど。
北村:そうだと思います。自分の中にあるイメージや景色を表現するための方法として、音楽があるという感じがしますね。
