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アキ・カウリスマキが営む小さな映画館。共同経営者に聞く「作品の上映」を超えた価値

2024.12.13

#MOVIE

地元民同士の交流や、教育との連携。キノ・ライカが地域社会と育むもの

―キノ・ライカがオープンしたカルッキラはもともと鉄鋼の町だったそうですが、地域から期待されたことはあったのでしょうか。

ラッティ:映画館自体はアキたちが企画して町に突然できたものなんですけれども、映画館ができるという話が出た瞬間からとても関心を持たれていました。地元の人たちにとっては、期待というより驚きがあったと思います。今こうして日本からインタビューを受けているように、対外的にとても大きなニュースになりましたからね。それまで金属工場ばかりだった町に、これほど注目が集まること自体、驚きだったと思います。

地元の人たちからすると、「これは自分たちの映画館なんだ」ということで彼ら自身の場所になったと思いますし、地元にとっては誇りを持てる場所になったと感じます。フィンランド中の映画関係者や文化関係者がカルッキラにやって来るようになりましたし、日本をはじめ、世界からも人がやって来るようになりました。これは本当に大きなことだと思います。

カルッキラの金属工場の様子 / 『キノ・ライカ 小さな町の映画館』場面写真 © 43eParallele

―映画を観ると今のカルッキラには多くアーティストが暮らしているように見受けられますが、キノ・ライカは彼らの交流の場として機能しているところもあるのでしょうか。

ラッティ:ええ、そうですね。地に足のついた、リアルな交流の場になっていると思います。カルッキラには映画監督や脚本家が住んでいますし、他にもさまざまな文化人が暮らしているので、イベントの有無に関わらず、俳優をはじめとして多くの映画人が集まってきます。カルッキラの町なかで映画の撮影が行われることもよくありますからね。あるいは隣の金属工場で働いている人たちも来ますので、アーティストと工場の職員が混じり、さまざまな人たちが集まる場所になっていると思います。

左からサイモン・フセイン・アル・バズーン(俳優、カウリスマキ『希望のかなた』『枯れ葉』に出演)、ジョヴァナ・ストヤノフスキ(セルビア出身で8歳のときにカルッキラに移住。本作で通訳として撮影に協力した) / 『キノ・ライカ 小さな町の映画館』場面写真 © 43eParallele

―工場で働く人とアーティストが1つの場所で交流するのは素晴らしいですね。そのほか、地域社会との関わりも深いのでしょうか?

ラッティ:キノ・ライカは現在カルッキラに存在する唯一の映画館ですので、2歳児から高校生まで、すべての公立学校がキノ・ライカで映画を観るプログラムを実施しています。それは自治体と協力しているものです。ですので、カルッキラでは「みんなで映画を観る」という文化も伝わっていると思います。一方で、退職された年金受給者の方には、安い価格でコーヒーと映画がセットになったチケットもあります。

アキは厳しかったり批判的だったりするところもありますが、それと同時にすごく優しくてユーモアもある人で、彼の人柄がそういったところによく表れていると思います。

カルッキラ市と地元の児童書出版社が共同で、幼稚園〜小学校低学年向けに開催したアニメ映画上映会の様子(キノ・ライカ公式Instagramより)

―私はカウリスマキ監督の作品を観ていると、良き映画文化の伝統を次に残そうとされていると感じますし、この前の『枯れ葉』(2023年)もまさにそういった作品だったかと思います。キノ・ライカもそうですよね。彼の近くにいるラッティさんは、カウリスマキ監督のそういった想いを感じられますか。

ラッティ:ええ。『枯れ葉』はカルッキラでも撮影されていて、私は現場に行ったわけではないのですが、そのとき「どんな映画を撮ってるんだい?」とアキに聞いたらひと言、「チャップリンだ」と答えました。映画文化を次の世代に残していきたい、伝えていきたいというのは、まさにそういったところにも表れていると思います。

『枯れ葉』の演奏シーンに登場した、ポップ・デュオMaustetytötの2人。左からアンナ・カルヤライネン、カイサ・カルヤライネン / 『キノ・ライカ 小さな町の映画館』場面写真 © 43eParallele

―なるほど、今日は興味深いお話をありがとうございました。ちなみに、ラッティさんが1番好きなカウリスマキ作品を挙げるとすると?

ラッティ:悩むところですが、今回は『愛しのタチアナ』(1994年)を挙げたいと思います。なぜかというと、カルッキラで撮影されたという理由もありますが、20年くらい前、まだ小さかった私の子どもが、保育園から帰ってきて毎日のように観ていた時期があったんですよ。もう40回くらい観ています(笑)。そういった意味では、すごく思い入れがあります。

『愛しのタチアナ』場面写真(キノ・ライカ公式Instagramより)

ラッティ:子どもが水彩画の授業で『愛しのタチアナ』のワンシーンを描いてきたのですが、その絵は今でもカルッキラのアキの仕事部屋に飾ってあるんですよ。マッティ・ペロンパー(アキ・カウリスマキ作品の常連俳優、1951〜1995年)がしゃべり出すシーンですね。

―それは素敵なエピソードですね! いつかわたしも、キノ・ライカに行きたいと思います。

ラッティ:ええ、ぜひキノ・ライカでお会いしましょう!

映画館「キノ・ライカ」外観 / 『キノ・ライカ 小さな町の映画館』場面写真 © 43eParallele

『キノ・ライカ 小さな町の映画館』

2024年12月14日(土)ユーロスペースほか全国順次公開
2023年/フランス・フィンランド/81分/2.00:1/ドルビー・デジタル5.1ch/DCP/フィンランド語、英語、フランス語/ドキュメンタリー/原題:CINEMA LAIKA
配給:ユーロスペース 提供:ユーロスペース、キングレコード
監督・脚本・撮影・編集:ヴェリコ・ヴィダク
脚本:エマニュエル・フェルチェ
出演:アキ・カウリスマキ、ミカ・ラッティ、カルッキラの住人たち、ジム・ジャームッシュ、マウステテュトット、ヌップ・コイヴ、サイモン・フセイン・アル・バズーン、ユホ・クオスマネン、エイミー・トービン
公式サイト:eurospace.co.jp/KinoLaika

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