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小説の想像させる強さ、映画の「映像でぶん殴る」強さ
―お話をうかがっていると、やはり文章と映像では、物語の構成や怖がらせ方に大きな違いがあると感じます。それぞれの強みと難しさをどのように受け止めていますか?
白石:それぞれまったく違いますよね。小説は抽象性が高い表現で、その抽象性がものすごい武器だと思うんです。映像の場合、やはり決まった情報を見せる以上、どうしても曖昧さが減ってしまう。だけど抽象性が高いほうが、読む人の想像力で補正できるぶん、怖いものを直接見せなくともボルテージを上げられる。
背筋:私も単行本を書いたとき、怖いシチュエーションを具体的に書きつつも、肝心の「もの」自体は書かないよう意識していました。「男がぬっと覗く」とは書いても、その男が何歳くらいで、どんな髪型なのかということは一切書かない。そうすると、読者それぞれが「嫌な顔」を思い浮かべられる――まさに監督がおっしゃったことですね。
白石:映像とは違い、時間にとらわれないところも文章の強さだと思います。もちろん映像も、観客の想像を超えるものを見せたり、想像もつかないタイミングで怖いものを見せたりして、より怖いものを作ることはできますし、そうでなければいけないんですが。
背筋:映像は、観た人すべての脳にまったく同じ像を結べるのが強みだと思います。迫力や迫真性をもって、絶対にブレないものを全員に観せることができる。それは文章には絶対できないことで、たとえば『ジュラシック・パーク』の映像表現をなんとか文字にしても、あの映画の迫力にはどうしてもかなわないじゃないですか(笑)。
―なるほど。

背筋:この映画を観ても、やっぱりひとつの映像で「ぶん殴る」強さがあると思うんです。
―やっぱり背筋さんの中で、白石作品は観客を「ぶん殴る」ものなんですね。
背筋:はい、そうですね(笑)。
―単行本・文庫・映画版と、これで『近畿地方のある場所について』には3つの物語が存在することになります。初めて触れる方にはどの作品から入ってもらうのがおすすめですか?
背筋:そうですね、3つともまったく異なる物語なので……。もちろん、どこから入っていただいても楽しめると思います。
白石:おっしゃる通りです!
背筋:文庫本には映画版と同じ名前のキャラクターが出てきますが、厳密に言えば漢字が違うので別人です。3つはそれぞれ別の物語、別の世界なんですよ。
『近畿地方のある場所について』

監督:白石晃士
脚本:大石哲也、白石晃士
脚本協力:背筋
出演:菅野美穂、赤楚衛二
原作:背筋「近畿地方のある場所について」(KADOKAWA)
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会
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