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『近畿地方のある場所について』白石監督と原作者背筋に聞く、観る怖さと読む怖さ

2025.8.8

#MOVIE

Vlogに昔のテレビ番組……多様なカメラで再現された映像テクスチャ

―配信者という意味では、劇中にはVlogの映像も出てきますよね。

白石:VlogはヘルメットのCCDカメラで撮っているだろうということで、かなり広角で撮っています。デジタルデータなので画質も劣化していないはずだから、かなりクリアな映像にしました。ノイズもデジタルのブロックノイズ風にして差別化しています。

背筋:合計で何種類くらいのカメラが使われているんですか?

白石:本当にたくさん使っています。画質の違いが出るように、撮影部にカメラをいろいろ選んでもらって。昔のテレビ番組の映像でいえば、本当はENGカメラという、肩に乗せるでっかいテレビカメラがあるんですが、使える機材がもう残っていない。そこでソニーのVX-1000やVX-2000という、DVカメラ創成期の一番いい民生機を使ったんですが、機材の不調で一日ぶんの撮影素材が真っ黒になってしまった(笑)。だからDVカメラの映像をデジタルで出力し、別の収録機材に録画しながら撮っているんです。女子高生のシーンや、団地で子どもたちが遊ぶ場面も同じやり方で。

背筋:ものすごく手が込んでいるんですね……。

白石:今回、いろんな年代や種類のPOVを多岐にわたって撮れたのは新しい挑戦でした。これは予算がないとできない(笑)。

瀬野千紘(菅野美穂 / 右)と小沢悠生(赤楚衛二 / 左)。原作がさまざまな文字メディアを横断して展開するのと同様に、映画にはさまざまな時代・質感の映像が登場する / ©️2025「近畿地方のある場所について」製作委員会

―林間学校の集団ヒステリー映像も、かなり古い印象ですよね。

白石:あそこもデジタルカメラですが、ぼわっとした質感が出るようにまた別のカメラを使っています。林間学校に帯同した業者のカメラマンが偶然ビデオカメラを回していて、恐ろしい出来事を捉えてしまったという体なので、プロの映像ではあるけれどもちょっと慌てている。撮影者本人は画面に映りませんが、キャラクターの気持ちに沿った撮り方をしつつ、起きている現象をたまたま撮れているというものを自然に見せていくわけです。

―昔のテレビ番組の再現映像はまた作り方が違うのでしょうか?

白石:そうですね。テレビ番組はサンプルとして使える昔の映像が残っているので、そこになるべく寄せていきました。撮り方やカットの割り方、編集の仕方、ナレーションの入り方、音楽のテイスト……。それからテロップも、実際の映像を見せて「こんなふうに白くにじんだ感じにしてください」と。時報のフォントも、昔はブラウン管のせいか、それとも信号のせいなのか変に歪んでいて。「8」のバランスが悪いとか「0」がやけに小さいとか、そういうところもこだわって再現しています。

―現代はスマートフォンで誰でもクリアな映像を撮れるので、昔のようなノイジーな映像に「なにか」が映り込んでいる、といった表現が成立しにくくなっているのかな? と感じます。テクノロジーの進化が、かえって恐怖演出を難しくしている面もありますか? 

白石:映画だと粗い質感を出せるので、特に怖い映像が作りにくくなったような印象はないですね。画質の話で言えば、実は劇映画のパートでもちょっとだけ粒子を足していて。

背筋:へえ!

白石:個人的には、テクノロジーが発達したぶん、脚本や芝居のほうが大変になったと感じています。どこでも携帯電話を使えるし、簡単に映像を撮ったり録音したりできるので、危機的状況やサスペンスを作りづらい。車ひとつとっても、ドアが自動で閉まるし、シートベルトをしないとブザーが鳴るし(笑)。

背筋:今回の映画でも、ブレーキが自動でかかると困るところがありますよね(笑)。

白石:そう、自動運転だとまずい(笑)。

背筋:だけど、それはホラーに限らず、作り手の誰もが直面している問題だと思うんです。ピンチに陥ったとき、だいたい「通報しろよ」とか「スマホ使えよ」って思われてしまう……。とはいえ原作小説の『近畿地方のある場所について』の場合は、幽霊がインターネット掲示板に書き込んでくるし、なんなら直接連絡してくる(笑)。幽霊がテクノロジーをねじ伏せているような気がしますね。

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