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君島大空の音楽の理想であり、転換点となる“Lover”

―ここまでのことがあって“Lover”に至るわけですが、『午後の反射光』からやってきたことを区切るにふさわしい曲が“Lover”だったということですか?
君島:「区切り」という言葉は、かなりプラスな気持ちで使っています。ここに至るまでにミュージシャンとして成長があった上で、“Lover”はピアノを弾いてたら、歌詞も含めてふわーっとできたんです。「俺はまだこんなこと本気で言うんだな」と思って不安にもなったけど、言いたいことが変わってないことに安心したりして。
“Lover”のすべてが自分の思い描いていたひとつの形だったんです。ちゃんと自分のことを歌っているし、サウンドは自分のものだけど友達の力も借りてるし、丁寧に作り込んだところもそうじゃないところもある。一番これがかっこいいじゃんって思ったし、そう思えるものが30歳になってできるって本当に幸せなことだなって。
―“Lover”は君島さんが今、ここにいるとはっきり感じられた初めての曲かもしれないです。これまでは、現実の時間や場所の感覚とは交わらないようなところから音楽が鳴らされていたような感覚があって。
君島:離人感っていうんですかね。去年ぐらいからのテーマなんですけど、昔からずっと自分が今ここにいる感じがあんまりないんですよね。映画を見ているような感覚になることがあって、だから他者に対しても一定の距離がずっとあったんだと思う。

君島:ある種、自分の存在を証明するもののひとつとして音源を作って出してきた6年間だったと思いますけど、“Lover”でやっと「人が歌っている感じ」がしたんです。
―今話してくれたことは記憶の中の映像や断片、過去の風景など視覚的なものを音楽にしてきたことと重なるものですか?
君島:多分、すごく繋がっていると思います。自分のフィルターを通して見えたものを音楽にすることで、自分を投影していたんだと思うんですけど、“Lover”はより自分の話みたいな感じ。でも“Lover”に映像があるかって言われたら、ちょっとぼんやりしているんですよね。
―確かに、「誰かがいる」ってことのほうが強い気がする。
君島:そうそう。中に誰かいるし、俺もいるし。
―これは関係性を歌っているんですかね。
君島:関係性ですね。
―それはすごく重要なことだと思うんです。なぜならこれまでは叙景的で、どこか第三者視点だったかもしれない君島さんの音楽が、これまでと違う「関係性」というモチーフで作られたわけだから。
君島:そうですね。“Lover”ができたことで、自分の中で表現の幅はすごく広がったと思います。ただ、こういう関係性とか自分自身のことを表現するものと、今までやってきた手法は、どちらかひとつだけっていうのは嫌なんです。今、どっちも僕の同じ場所にある感じがしてて。
―その両方が「動機」を共有しながら作られているわけですもんね。
君島:そうそうそう。
俺は繰り返す
君島大空“Lover”より
君が笑うまでずっと
君とずっと
ずっと