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「好きなものを好き」といえるつよさ
その「それでいい」ことがさらに伝わる、山田尚子監督による本作の企画書の言葉を、そのまま引用しておこう。
思春期の鋭すぎる感受性というのはいつの時代も変わらずですが、すこしずつ変化していると感じるのは「社会性」の捉え方かと思います。
公式サイト記載の、山田尚子監督による本作の企画書より
すこし前は「空気を読む」「読まない」「読めない」みたいなことでしたが、今はもっと細分化してレイヤーが増えていて、若い人ほど良く考えているな、と思うことが多いです。
「自分と他人(社会)」の距離の取り方が清潔であるためのマニュアルがたくさんあるような。表層の「失礼のない態度」と内側の「個」とのバランスを無意識にコントロールして、目配せしないといけない項目をものすごい集中力でやりくりしているのだと思います。
ふとその糸が切れたときどうなるのか。コップの水があふれるというやつです。彼女たちの溢れる感情が、前向きなものとして昇華されてほしい。「好きなものを好き」といえるつよさを描いていけたらと思っております。
なるほど、若者、特に思春期の少年少女は「コミュニケーションにとても気を遣っている」のだろう。周りを意識して、よく考えた末の、コントロールされた社会性ももちろん大切なものだろうが、山田尚子監督は「コップの水が溢れ出る」ような、「好きなものを好き」という気持ちを肯定してほしい、それはきっとつよさにもなるという優しさを、本作に注いでいるのだ。
「気を遣って隠していた」「でも『好き』が溢れ出す」は、同じく山田尚子監督×吉田玲子による脚本の映画『リズと青い鳥』や『たまこラブストーリー』でも描かれたことだ。さらに、同コンビのテレビアニメ『けいおん!』がそうだったように、豊かなアニメで描かれた演奏シーンでも、その「好き」がたっぷりと表現されている。そうした点から、『きみの色』はこの2人の集大成ともいえるだろう。
