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他者の存在がエコーのように響き、自分の心に影響を与える
朝は高校で軽音楽部に入部し作詞をすることになるが、この詞のキーワードになるのが「エコー」である。エコーとはすなわち反響だが、このモチーフは、周囲の人々との交流がだんだんと自らの内奥にも影響を与え、自分と他者は実は境界がなく響き合う存在であるということを見事に言い当てている。
朝は両親が亡くなってもすぐには涙を流さなかった。それは余りに唐突すぎる別れに実感が持てなかったからだろう。その後、徐々に自分を一番愛していてくれた存在の喪失を感じていくのだが、それは母の実里に思いを馳せるなかでというよりは、槙生や親友のえみり(小宮山莉渚)にはいる「自分を一番大切に思ってくれる人」が自分にはいない、という寂寥感のなかで生まれている。

また槙生は映画終盤に、まるで独り言のように「姉が憎いという気持ちを変えたくない」と洩らす。少女時代から創作に耽っていた槙生に、「現実を見ろ」「そんなことでは誰からも愛されない」と干渉してきた姉に対して確かな憎悪を感じていたはずの槙生は、娘である朝と接することで母としての実里を知り、彼女に対しての気持ちが変わり始めてしまうのだ。
ただ、映画は槙生に実里への嫌悪を終わらせることを強いない。誰かを憎む気持ちは時としてアイデンティティの柱になって、その人をその人たらしめる理由になることがあるからだ。
