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リアルな会話劇とSF設定を掛け合わせたバカリズム脚本の魅力

『ホットスポット』は、富士山の麓の街・山梨県富士浅田市を舞台に、シングルマザーの清美が、宇宙人と地球人のハーフである職場の先輩・高橋さんに命を助けられたことから始まる、SF史上かつてない小スペクタクルな「地元系エイリアン・ヒューマン・コメディー」だ。第1話では、清美が務めるホテルの客室にあったテレビの盗難、第2話では、体育館の天井に挟まったバレーボールを取り除き、小学校の校庭にいたずらした犯人を撃退、第3話では、駐車場の溝にタイヤがはまった車を持ち上げ、SOS表示を出したまま走り去ったタクシーを追うなど、高橋さんが宇宙人の能力を使って、たまに副作用や疲れを見せつつ、解決していく。
しかし、高橋さんが事件を解決するからといって、高橋さんの活躍が物語の中心かというと、そういう訳ではない。中心にあるのは、清美の日常であり、高橋さんとの関わりはその一部に過ぎない。

『ホットスポット』は、2023年放送の『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)の制作チームが再集結したドラマだ。『ブラッシュアップライフ』も、何度も人生をやり直すタイムリープ系SFである一方で、中心にあったのは主人公・近藤麻美(安藤サクラ)が築いてきた友情やそれぞれの人生で選択した仕事の日々だった。バカリズムの作品において、タイムリープや宇宙人というSF要素は、あくまでスパイスでしかない。物語の中心にあるのは、仕事や友情、家族との日常、それらを象徴する、とりとめのないおしゃべりだ。バカリズムの脚本は、リアルな会話劇の精度が高いからこそ、対極にある非現実的なSF設定と掛け合わされることで、どちらの良さも際立ち、見たことがないユーモアを生み出すことができる。