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美術とパフォーマンス。表現ジャンルを横断する構造の意図
—今回は美術とパフォーミングアーツの両方に参加する作家が3組いて、ジャンルを行き来するようなプログラムはアル・カシミ監督のアイデアだと聞きました。ジャンルを横断するようなプログラムをされた意図を教えてください。
アル・カシミ:それぞれの作家において、何故美術とパフォーマンスの両方に起用したのかには違う理由があります。マユンキキは、彼女という存在をこの芸術祭を通して全体で感じられるようにしたかった。彼女が語る物語はすごく重要だと思うし、展示とパフォーマンスの双方から広く観客に届けたいと思いました。セルマ&ソフィアン・ウィスィは美術作家としては、ユネスコヘリテージにも登録されている、チュニジアのセジュナンという地域の女性が制作する陶磁の人形をテーマにした作品を制作しているので、瀬戸とつながるように思い起用しました。パフォーミングアーツでは、鳩とともにダンスを通じて、人間と動物の関係を問います。異なる媒体で、まったく違うアプローチをしている作家と言えます。

アル・カシミ:パレスチナの作家、バゼル・アッバス & ルアン・アブ=ラーメは、パフォーミングアーツの企画としてクラブイベントを予定していますが、普段、美術館には来ないストリートや音楽の客層、より若い層へリーチしたいと思い起用しました。このパフォーマンス体験をきっかけに、アートに興味を持って美術展に足を運んでもらえたらと思いプログラムしました。

中村:今年5月、『シャルジャ・ビエンナーレ』に行ってきたのですが、パフォーマンスやサウンドと美術が共存しているのがすごくいいと思いました。近年、美術もパフォーマンスもお互いに領域が拡張していて、両者をオーバーラップさせたいというフールの思いがすごくよくわかりました。また、シャルジャではパレスチナからの表現というのが当たり前のように多面的にありました。日本にいると、パレスチナ=戦地というイメージがあって、それ以外のイメージはなかなか伝わってきません。芸術祭という場所で、作品を通じて人と人が出会い、対話が生まれることってすごく大事だなと。目下、私たちはバゼル&ルアンの新作を制作中ですが、彼らの作品についてもう少しお聞かせください。
アル・カシミ:シャルジャにはパフォーマンスに特化したフェスティバルもあり、パフォーマンスシーンも盛んです。でも、私が芸術祭にキュレーターとして関わった時に、新たな挑戦として、別々にあるシーンを一つのコンテクストの中でつなげてみたかった。バゼル&ルアンは、いつもインスタレーションの中にパフォーマンスを立ち上げる作品を制作しています。今回の作品では、パレスチナで撮影した映像がプロジェクションされますが、その映像は色や歪み等様々な加工が加えられレイヤー化され、光や音、テキストとともに没入型の体験を作り出します。彼らはパレスチナがいかに支配され、土地が奪われているかという話ももちろんしますが、同時にパレスチナには今現在どういう人がいて、若い人たちは何を考えているのか、どんな音楽を聞いているのかという「今」を扱っています。彼らが映像で用いるテキストも非常に重要です。

—最後に、美術展鑑賞にもつながるかとは思いますが、お二人にパフォーミングアーツの魅力をお聞きできればと思います。
アル・カシミ:美術とパフォーマンスというジャンルはどんどん拡張していますが、ライブのセッティングで作品を鑑賞するというのは、やはり特別な体験です。まずは、観客がその場にいる。作品を観るというよりも、作品の一部として自分が存在するということが特別な体験として挙げられるのではないでしょうか。
中村:私も同じようなことを考えていました(笑)。少し言葉を変えて言いますね。私が最近よく使っている言葉に「他者の靴を履く」というものがあります。ブレイディみかこさんというイギリス・ブライトン在住の作家による『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』(文春文庫)からの引用なのですが、ここで話される「エンパシー」というのは、体の特性や文化、価値観の異なる相手を理解する知的能力のことで、感情的に共感する「シンパシー」とは異なり、大人になってからでも培うことができる能力なので、共生社会や教育の分野でも注目されています。芸術祭はアーティストの視点を通じて、既存の自分が持っている靴とは違ういろんな「靴」を履くことができる、それを楽しんでいただきたいと思います。
『国際芸術祭「あいち2025」』

テーマ:灰と薔薇のあいまに A Time Between Ashes and Roses
芸術監督:フール・アル・カシミ
[シャルジャ美術財団理事長兼ディレクター/ 国際ビエンナーレ協会(IBA)会長]
会 期:2025年9月13日(土)~11月30日(日)[79日間]
会場:愛知芸術文化センター、愛知県陶磁美術館、瀬戸市のまちなか
主 催:国際芸術祭「あいち」組織委員会
[会長 大林剛郎(株式会社大林組取締役会長 兼 取締役会議長)]
パフォーミングアーツ 公演スケジュール
★ ミート・ザ・アーティスト
終演後、アーティスト等との対話の時間があります。
♣ リラックス・パフォーマンス公演
♡ 託児サービスあり
◆ブラック・グレース 『Paradise Rumour(パラダイス・ルーモア)』
太平洋の島々に対する“楽園”のイメージにひそんだ“偽り”を問う
躍動的なダンス・パフォーマンス、日本初上演。

Photo:Duncan Cole
サモアなどの太平洋の島々や、アオテアロア/ニュージーランドの先住民であるマオリ等にルーツを持つメンバーで構成されたダンスカンパニーの20年ぶりとなる来日公演。太平洋の島々の楽園(パラダイス)としてのイメージの裏にある、差別や偏見にさらされる移民コミュニティの歴史。彼らが辿った道のりを「希望と抵抗」「悲しみと受容」「抑圧と解放」「信仰と危機」を象徴する4人のダンサーたちが躍動感溢れる力強い動きで表現する。
日本初演
9/13(土)14:00♡、18:30♡、9/14(日)18:30♡、9/15(月祝)14:00★♣♡
会場:愛知県芸術劇場 小ホール(自由席)
◆バゼル・アッバス&ルアン・アブ=ラーメ、バラリ、ハイカル、ジュルムッド 『Enemy of the Sun (エネミー・オブ・ザ・サン)』
パレスチナの“現在”(いま)を体感する新作ライブ・パフォーマンス。

Photo: Julieta Cervantes
バゼル・アッバス&ルアン・アブ=ラーメが、消し去られ続ける危機にあるパレスチナの風景を今年新たに撮影し、構成する新作パフォーマティブ・インスタレーション。名古屋のクラブ空間で、映像と、パレスチナから招へいするバラリ、ハイカル、ジュルムッドの3名のミュージシャンによるライブ・パフォーマンスが重なり合う。映像の断片から語られるのは、断絶された土地・コミュニティ・歴史との再接続の試み。そして土地とともに生き、とどまり続けるという確かな意思。忘却に抗うパレスチナの現在に立ち会う。
世界初演・新作
9/13(土)・9/14(日)18:00 OPEN/20:30〜 『Enemy of the Sun』パフォーマンス
※18:00-24:00 ゲストDJ等あり
会場:Live & Lounge Vio・CLUB MAGO(中区)(座席なし)
◆クォン・ビョンジュン 『ゆっくり話して、そうすれば歌になるよ』
自然と人、過去から今、そして瀬戸の風土や生活の営みを感じさせる回遊型サウンド・スカルプチャー。

瀬戸の土、水、火、植生、まちや人々から採集した音で構成する仮想世界が、愛知県陶磁美術館の広大な芝生広場の自然風景に重なり、ヘッドフォンを着用すると音の野外彫刻が立ち上がる。精密なGPSと立体音響技術により、現実と仮想の境界が揺らぐ特別な体験。
世界初演・新作
9/13(土)〜9/21(日)9:30〜17:00
10/25(土)〜11/9(日)9:30〜16:30
11/1(土)は9:30〜19:30
※10/27(月)、11/4(火)は休館
会場:愛知県陶磁美術館 芝生広場
※現代美術展チケット(フリーパス、1DAYパス)で鑑賞可能
◆態変 『BRAIN(ブレイン)』
脳、身体、人工知能の関係から生命の尊厳について問う。
態変42年におよぶ身体的探究から生まれる最新作。

金滿里率いる態変の表現は、地面に這いつくばる圧倒的な存在感の身体によって、観る者の美意識や価値観を強く揺さぶる。今回のテーマは「脳」。人工知能(AI)が我々の生活の隅々にまで影響を及ぼしつつある近年に応答し、脳による制御から外れる彼らの身体で、脳と身体のねじれた関係を考察する。コラボレーターには、メディア技術を用いた作品を制作するシステム・アーキテクトとして時里充を迎える。現代において、いかに私たちの存在(生命)への尊厳は保たれるのか―態変が社会に問う挑戦的新作。
世界初演・新作
9/26(金)18:30★、9/27(土)18:30♡、9/28(日)14:00♣♡
会場:愛知県芸術劇場 小ホール(自由席)
◆マユンキキ⁺ 『クㇱテ』
言葉、歌、音、光と影によって紡がれる物語。
「以前」と「以後」、「上流」と「下流」、「先祖」と「子孫」― 不可逆とされる大きな流れに橋をかけ、穴を穿ち、道を通す試み。

マユンキキがこれまで共演・共作を行なってきたメンバーとともに、奥三河の天竜川流域や北海道石狩川上流域でのリサーチを重ねた本作。タイトル『クㇱテ』とはアイヌ語で「(場所に)∼を通らせる」という意味の他動詞。出演者であるマユンキキとレㇰポの祖父であり、 日本の鉄道敷設史上最大の難所の一つと言われた奥三河の三信鉄道の開通に大きな功績を残した測量士、そして旭川アイヌのリーダーである川村カ子トの軌跡をたぐり寄せながら創作する。
世界初演・新作
10/3(金)18:30♣、10/4(土)17:30♣、10/5(日)14:00★♣
会場:瀬戸蔵つばきホール(自由席)
10/12(日)13:00♡、18:30♡、10/13(月・祝)11:00♡、16:30♡
会場:愛知県芸術劇場 大リハーサル室(自由席)
◆オル太 『Eternal Labor(エターナル・レイバー)』
「虫みたいだね。うん。私たち虫だよ。労働者は虫なの。
そう言って虫になってしまう。」

『エターナルレイバー』は、世界の負の遺産をたどった『GHOST OF MODERN』(2013)以降、オル太が継続して探求してきた近代から現代へとつながるイデオロギーの問いを深める最新作。
日本列島から朝鮮半島にいたるリサーチを経て、大日本帝国時代と現代の分断・連続性、経済発展の裏で行われた搾取と労働を、現代女性の身体と重ねながら描き出す。見世物化された女性、妊娠できる身体、性差別と権力構造など社会に潜む問題を軸に、展示と公演の両面を通して、オル太ならではの時空を越える重層的な視点とユーモアで、無意味な労働や消費的な生の根底に迫る。
世界初演・新作
10/10(金)18:30、10/11(土)18:30★♡、10/12(日)18:30♡、10/13(月・祝)15:00♣♡、10/15(水)18:30★、10/16(木)18:30、10/17(金)18:30♣、10/18(土)18:30♡、10/19(日)15:00♡
会場:愛知県芸術劇場 小ホール(回遊型)
※同会場にて公演に連動した展示あり(展示のみの鑑賞は現代美術展チケット(フリーパス、1DAYパス)でも可能、予約不要)
10/10(金)〜10/12(日)、10/15(水)〜10/18(土)13:00〜17:30、10/13(月・祝)・11/19(日)10:00〜14:00
◆セルマ&ソフィアン・ウィスィ 『Bird(バード)』
この世界で、人と動物は共に生きていけるのだろうか。
予測不可能な出来事、沈黙、呼吸やまなざしによる鳩と人のがはじまる。

廃墟となった元映画館を棲み処とする鳩との出会いから着想を得た本作。舞台上では、ダンサーと鳩が共演者として、互いの存在を尊重しながら身体による予測不能な対話を紡ぐ。その詩的で繊細な表現は、世界各地で「共に生きること」の本質を問い直し続ける。振付や映像、インスタレーションなど多様な方法で身体や記憶、社会的関係性をテーマにした作品を発表する兄妹ユニットが、人間中心の視点を超え、偶発的で不確かな存在との新たな関係を切り開く。
日本初演
11/14(金)18:30★、11/15(土)18:30♡、11/16(日)18:30♡
会場:愛知県芸術劇場 小ホール(自由席)
◆AKNプロジェクト 喜劇『人類館』
「彼らも私たちと同じ人間なのに……」
沖縄・日本・アメリカを巡って今も続く歴史に、記念碑的傑作の新演出が「ドンデン返し」を試みる。

今も沖縄に多大な影響を残している劇作家・知念正真の代表作『人類館』(初演1976年/岸田戯曲賞受賞)は、1903年の「人類館事件」を起点に、皇民化教育、沖縄戦、米軍統治とベトナム戦争、72年の本土「復帰」を織り込み、沖縄を巡る歴史を白昼夢のような手法で示した記念碑的傑作である。
本作では、娘の知念あかねが2020年に立ち上げたAKNプロジェクトにより、3度目のリ・クリエーションに挑戦。共同演出には沖縄から新進気鋭の新垣七奈、舞台美術に佐々木文美、ドラマトゥルクに林立騎を迎え、戯曲を“喜劇”として捉え直すことで、強さと弱さ、無関心と苦しみ、ゲートの内と外、国家の中心と周縁といった現在に至るまで続く関係の反転を試みる。
新演出
11/22(土)18:30★♡、11/23(日)13:00♣♡、18:30★♡、11/24(月・振休)14:00♡
会場:愛知県芸術劇場 小ホール(自由席)
◆フォスタン・リニエクラ『My body, my archive(マイ ボディ・マイ アーカイブ)』
歴史のかなたから響く、身体に刻まれた記憶が立ち上がる。
ダンスによるストーリー・テリング。

「身体」を生きたアーカイブと捉え、歴史の暴力性とそれが個人や共同体の記憶に与える影響を問いかけるコンゴ民主共和国出身の振付家・演出家・ダンサー。
かつてコンゴの人々が、自らの生活の記憶を託した仮面や彫刻、歌、物語は植民地主義とともに破壊、あるいは散逸していった。本作では征服者によって築かれた記録に抵抗し、断片化された歴史と記憶を繋ぎ直すことで、アーカイブの再構築を試みる。サン・ラ・アーケストラのメンバーでもあるヘル・シャバカ=ラのトランペットが、身体に刻まれた記憶を呼び覚まし、過去の傷跡、歴史の重み、そして未来の兆しを浮かび上がらせる。
日本初演
11/28(金)18:30、 11/29(土)18:30★♡、11/30(日)14:00♣♡
会場:愛知県芸術劇場 小ホール(自由席)
※ 受付開始は開演45分前/開場は開演30分前
(Live & Lounge Vio・CLUB MAGO、愛知県陶磁美術館の公演を除く)