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『国際芸術祭「あいち2025」』フール・アル・カシミ芸術監督×中村茜キュレーター対談

2025.8.29

『あいち国際芸術祭2025』

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中村茜のキュレーション作品を解説。歴史に遺されたものと遺されなかったもの、両面から考える

—中村さんにお聞きします。アル・カシミ芸術監督から何名か作家の紹介がありましたが、今回参加する日本の作家が抱える問題意識とつながっているようにも思います。

中村:今のお話はマユンキキが抱える問題意識につながってきます。共同体や文化が大事にしてきた言葉——それは書き言葉ではなく例えば彫刻や服飾、音楽が(支配者側の)博物館に納められてしまっているという歴史。和人により土地を奪われ、同化政策により言語や生活習慣、生業などの変更を余儀なくされた歴史がある。そんな歴史の中で彼女は、アイヌの女性だからこそ起こる“出来事”から着想を得て、作品にしています。でも、一方で彼女は「自分が作品を作らなくていい世の中になってほしい」という話をよくしています。

マユン・キキとサージ・オーケストラによるライブ映像。(Ikon Gallery, Birmingham, 2022)

今回の作品でパフォーミングアーツでは、これまで共演・共作を行なってきたメンバーとともにマユンキキ⁺として参加するマユンキキがテーマにしたのは、三信鉄道(現JR飯田線)という鉄道と祖父の川村カ子ト(かねと)です。愛知県の豊橋から長野県の飯田方面まで続く長い鉄道で、史上最大の難所の一つと言われた険しい渓谷(天竜峡駅から三河川合駅まで)の測量を、彼女の祖父で旭川アイヌのリーダーでもあった川村カ子トが手がけました。それは非常に偉大な功績なんですが、近代化にはもちろん負の側面もつきまとっています。善いことと悪いことには連続性がありますよね。鉄道が開通することによって、人が住めるようになる。すると電気が必要で発電のためのダムができる。ダムを作る裏側には強制労働をさせられた人たちがいて、そこには朝鮮からの労働者も多かった。そうした負の遺産にもきちんと目を向けていきたいとおっしゃっています。

作品は、世代や地域を越えて分断したものを、新たにつなぎなおすように創作され、美術とパフォーミングアーツの両方で発表します。美術はサウンドインスタレーション、パフォーマンスは音や影絵が織りなす舞台体験を予定しています。

マユンキキ⁺『クㇱテ』は、言葉、歌、音、光と影によって紡がれる物語。「以前」と「以後」、「上流」と「下流」、「先祖」と「子孫」―不可逆とされる大きな流れに橋をかけ、穴を穿ち、道を通す試み。©Namine Doi

中村:アーカイブや記憶という意味ではAKNプロジェクトにも通ずると思いました。彼らは、沖縄が抱えている記憶を現代の人たちにどう継承していくかということを継続的に考えているチームで、戯曲『人類館』の3回目のリクリエーションに挑みます。もともとの戯曲は故・知念正真が書いたものですが、今回は20代と40代という世代の異なる女性演出家の視点で喜劇として作り直します。

AKNプロジェクト 喜劇 『人類館』 / 今も沖縄に多大な影響を残している劇作家・知念正真の代表作『人類館』(初演1976年 / 岸田戯曲賞受賞)は、1903年の「人類館事件」を起点に、皇民化教育、沖縄戦、米軍統治とベトナム戦争、72年の本土「復帰」を織り込み、沖縄を巡る歴史を白昼夢のような手法で示した記念碑的傑作である。今作では、娘の知念あかねが2020年に立ち上げたAKNプロジェクトにより、3度目のリ・クリエーションに挑戦。共同演出には沖縄から新進気鋭の新垣七奈、舞台美術に佐々木文美、ドラマトゥルクに林立騎を迎え、戯曲を「喜劇」として捉え直すことで、強さと弱さ、無関心と苦しみ、ゲートの内と外、国家の中心と周縁といった現在に至るまで続く関係の反転を試みる。イラスト:大白小蟹

中村:先ほど「近代化の影響」という話が出ましたが、オル太の作品の重要なテーマになっています。今回、芸術祭の会場にもなっている瀬戸は、1000年以上続くやきもの産業が、近代化を経て、形を変えていきながらも継続している土地です。瀬戸のやきものの近代化を支えた大きなエネルギー資源の一つに石炭があります。そして、実はこれらの石炭の多くは、九州は筑豊の炭鉱で掘られたものでした。オル太の作品『Eternal Labor(エターナル・レイバー)』は、九州の筑豊、対馬、朝鮮半島に滞在し、炭鉱をはじめ近代化の歴史と現代へのつながりを掘り下げ、現代の女性の労働とも掛け合わせ、近代化の歴史を再解釈しています。

オル太『Eternal Labor(エターナル・レイバー)』は、世界の負の遺産をたどった『GHOST OF MODERN』(2013)以降、オル太が継続して探求してきた近代から現代へとつながるイデオロギーの問いを深める最新作。日本列島から朝鮮半島にいたるリサーチを経て、大日本帝国時代と現代の分断・連続性、経済発展の裏で行われた搾取と労働を、現代女性の身体と重ねながら描き出す。見世物化された女性、妊娠できる身体、性差別と権力構造など社会に潜む問題を軸に、展示と公演の両面を通して、オル太ならではの時空を越える重層的な視点とユーモアで、無意味な労働や消費的な生の根底に迫る。©︎OLTA

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