日本でも興行収入3億円を突破する大ヒットを記録した『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』をはじめ、いま香港映画の躍進が目覚ましい。
2025年3月14日(金)〜23日(日)に開催された『第20回大阪アジアン映画祭』では、「Special Focus on Hong Kong 2025」と題した特集プログラムが組まれ、新潮流の多様な香港映画が上映された。
本記事ではその中から、香港で『トワイライト・ウォリアーズ』を超えて広東語映画の歴代観客動員数No.1を記録した『ラスト・ダンス』、聴覚障がいを繊細に描いた青春映画『私たちの話し方』など最新の注目作を、監督への取材を交えながら紹介する。
INDEX
『トワイライト・ウォリアーズ』超えの大ヒット作『ラスト・ダンス』
『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』が日本でも大ヒットを記録する中、昨年香港では同作を超える大ヒット映画がもうひとつ誕生していた。それが、『ラスト・ダンス』(原題『破・地獄』)だ。香港では『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)に迫る勢いといえば、そのすさまじさが伝わるだろうか。
日本では昨年の『第37回東京国際映画祭』と『香港映画祭2024 Making Waves』で上映されたが、2025年3月14日(金)~23日(日)に開催された『第20回大阪アジアン映画祭』では、13分間の未公開シーンを加えた『ラスト・ダンス<ディレクターズカット>』がワールドプレミアを迎えた。これまで多様な香港映画を毎年紹介してきた同映画祭には、監督のアンセルム・チャン、出演者のレイチェル・リョンも来日し、観客とのQ&Aをおこなっている。

驚くべきは、『ラスト・ダンス』がアクション映画ではなく直球のヒューマンドラマ、いわば「香港版『おくりびと』」とも言うべき葬儀文化を題材とした物語であることだ。
主人公のドウサンは元ウェディングプランナーだが、コロナ禍の不況ゆえ転職を余儀なくされ、恋人の叔父から葬儀社を引き継ぐ。ところが、年老いたパートナーの道士・マンは気難しい性格だった。プロとしての力量は確かだが、こだわりが強く、伝統を重んじるあまり家族との関係はうまくいっていない。家業を継ぐ予定の息子を認めておらず、「女性は不浄だ」という考えゆえに、救急隊員の娘との間にも埋めがたい溝があった……。
ドウサンは飛び込んでくる依頼を引き受け、さまざまな死者を悼むことで成長しながら、マンやその家族との距離を縮めてゆく。短いエピソードをいくつも連ねながら、ドウサンの心境の変化や、いがみ合っていた家族の修復に収斂してゆく脚本が秀逸だ。原題の「破・地獄」とは道教の葬儀における儀式のことだが、ここにも複数の意味が込められている。
