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6台中2台しかカメラが回っていない場面も。16ミリフィルムでの撮影に奮闘
─とはいえ、まだまだ解決すべき課題も多かったのでは?
大根:16ミリフィルムカメラ自体、そんなに現場では使われない。さらに、カメラとカメラマンを集められたとしても、フィルムのチェンジをする助手も必要でした。
─僕も実際に現場での撮影を見るまでちゃんとわかってなかったんですが、カメラ1台につき3人がかりなんですよね。文楽の人形の遣い手みたいに3人がカメラに張り付いていました。
大根:まずフィルム1巻につき11分しか撮影できないんです。1巻終わったらチェンジしていかないと。しかも、そのやり方も独特で、ちゃんと黒い布を被せて露光しないようにしないといけないし、マガジンというフィルムケースに入れるのも職人技が必要。そういうことができる助手の方々も集めて、さらにクレーンやレールなどの特機スタッフも入れて、総勢30人のチームで撮ることになったんです。
あとは、東京中から今も動く16ミリフィルムカメラを6台かき集めて。事前に現地でロケハンもして、それで12月5日の本番を待つことになりました。

─実際にニュー白馬に行ってわかったことはありました?
大根:ステージがちょっと暗かったことですね。やっぱりキャバレーなので。でもフィルム撮影ではある程度の光量は必要なので、本番では『エルピス』で照明チーフの助手をやってくれていた近松光くんを連れて行って、サイドからの光量を足したんです。でも、とにかくまず場所を自分の目で見て、これは確かにやべえぞと思いました。ここで坂本さんが演奏すると思ったらよりテンションが上がりました。
─ライブ中は、大根さんは2階にいらしたんですよね。
大根:もともとは客席だったところを潰して調整室みたいにしてたのかな? そこをベースとして、モニターを見ながらカメラマンにインカムで指示をしました。それはライブ映像のスタンダードな撮り方ですけど、デジタルカメラならモニターもすごくきれいなわけですよ。16ミリってビジコンと呼ばれる古いモニターを使うんですが、画質が昭和の裏ビデオ並にガビガビで(笑)。本番中はその劣悪な画質しか見てなかったから、本当にちゃんと撮れてるのか、ちょっと不安ではありました。

─フィルムの交換のタイミングもカメラごとに把握していたんですか?
大根:坂本さんの曲は全部頭に入ってたので、曲ごとのディレクションやカメラワークはだいたいできてましたね。もちろん、「よーいスタート!」で最初から全部一斉に回しちゃうと1台も回ってない時間帯ができてしまうので、時間差でずらしてやりました。
実際、中盤では2台しか回ってない瞬間とかありましたから。そういうときは回ってるカメラの人に「今2台しか回ってないよ! 絶対に外さないで!」ってインカムで伝えたりして、そんなスリリングさもありました。
─最近のバンドのライブ映像って一般的には、カメラ台数も多く、カットも目まぐるしく切り替わる印象ですが、ニュー白馬では6台だけだし、11分ごとのフィルム交換という制約もあるから、わりと長回しが多いですよね。
大根:そうですね。限られている機材や環境だからこそやったことが功を奏したかな。さっき照明を少し足したと言いましたけど、お客さんにはわからないくらいの程度で、基本的にはキャバレーに元からある照明で何とかしました。
照明オペレーターも地元のイベントをやっている方に来てもらいました。照明をいじる卓のフェーダーとかもまったくなくて、バチーンって押すスイッチでしたからね(笑)。そのスイッチで背景の色が変わったり、両側の電飾柱が回り出したりしたんです。

─あの回転する柱もハイライトですよね!(笑)
大根:最高だったし、非常に手作り感がありました(笑)。もちろんみなさんプロが集まってやってるんですけど、ある意味プロっぽくない現場というか、自主制作感がすごい。
あと、東京のライブだと観客も「さあ見るぞ!」みたいに集中してる印象が強いですけど、あの日の白馬のお客さんは結構ゆるくて、演奏中もずっとしゃべったり、後ろのバーカウンターにお酒をどんどん買いに行ったり、コロナ後期ではあったんですが、ルーズでいいノリだったんですよね。その雰囲気もめっちゃ良かったんですよ。バンドの演奏も、客のノリの良さに呼応していて、撮りながら徐々に「これはいいものを撮れているぞ」と感じてました。モニターの映像はガビガビでしたが(笑)。