SNSから火が付き、大きな話題となった漫画『光が死んだ夏』(作=モクモクれん)が、2025年7月5日(土)深夜よりTVアニメとして放送開始される。2023年には「このマンガがすごい!2023」(宝島社)のオトコ編で堂々の1位を獲得し、Z世代を中心に高い注目を集めている本作。『ルックバック』『チェンソーマン』『SPY×FAMILY』『進撃の巨人』など、このランキングで過去に1位を獲得した作品のリストを見れば、期待はおのずと膨らむだろう。アニメ化を機にさらに注目を集めるであろう本作の魅力を予習しておこう。
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ホラー×ブロマンスの青春劇
物語の舞台は、山間の集落クビタチ村。高校生のよしきと光は、ずっと一緒に育ってきた親友だ。だが、半年前に光が山で一週間行方不明になり、戻ってきてから、何かがおかしい。異変に気づきながらも、それでも一緒にいたいと願うよしきは、光の「中身」が何かに入れ替わった存在「ナニカ」と日常を送っていくことになる。一方、時を同じくして集落では奇怪な事件が起き始める——。『光が死んだ夏』は、ホラー×ブロマンスな夏の日々を描いたエモーショナルな青春劇だ。

大きく見ればジャンルとしては間違いなくホラーに分類されるが、読者が心をつかまれるのは、よしきと光の関係性だ。死んだはずの、好きな人の姿と声で話しかけてくる「ナニカ」。物語全体に漂う「失ってしまうよりマシ……かもしれない。でも、本当にそうだろうか?」という問いが読者の胸を締めつける。ブロマンス的なよしきと光の関係性も、言葉には出されていない。けれど、よしきの視線に、光への想いがにじみ出ている。だからこそ、「光じゃない」と気づいた瞬間の心の裂け目が、とてつもなくリアルに感じられるのだ。

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音の消失、謎の「く」の字、押し寄せる擬音……一級品のホラー演出
『光が死んだ夏』は、ホラー演出も一級品だ。特に印象的なのが、冒頭でよしきが光に「お前、やっぱ光ちゃうやろ」と問いかけた瞬間、急にセミの鳴き声が消える演出。音の消失によって訪れる不穏な静寂が、「最も身近な異常」を演出する。
さらに、作中に登場する「く」の形をした謎の存在も恐ろしい。これはネット怪談で知られる「くねくね」がモチーフとなっていて、日常を異常が侵食してくる恐怖で物語全体を覆っていく。

原作で注目すべき表現のひとつが「擬音」だ。たとえばクマゼミの「シャワシャワ」やカエルの「ゲコゲコ」といった鳴き声が、通常のコマ割りを超えて画面全体に広がり、読者の視界を支配する。この、音が聞こえない漫画というメディアだからこそできた視覚表現が、アニメではどうなるのか気になるところだが、すでに公開されているPVでは、文字ではなく音を用いた擬音の演出が確認できる。原作の「嫌に目に響く音」は、アニメでは「妙に耳に残る音」へとうまく昇華されているので、漫画を読んだ人はアニメを、アニメを見た人は漫画をチェックすることを強く推奨したい。
舞台のモデルとなったのは三重県の山間部だ。作者のモクモクれんは、関西弁と似ていながら少し違う特徴的な方言を探し、三重弁を採用した。登場人物たちが話す方言は、架空の閉ざされた田舎の空間と、どこかじっとりと湿った空気感にさらなるリアリティと体温を与え、この作品の静かな狂気に拍車をかけている。 配色やデザインの意外性も、作品の魅力を底上げしている。たとえば単行本のカバーは、心の闇を描くホラーにはミスマッチな、明るい水色。「元気な夏」と「陰鬱な内容」のギャップが物語の不安定さを際立たせる。なお、こうした色使いはアニメ公式サイトやPVにも引き継がれており、世界観のデザインにも統一感が感じられる。
