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音の消失、謎の「く」の字、押し寄せる擬音……一級品のホラー演出
『光が死んだ夏』は、ホラー演出も一級品だ。特に印象的なのが、冒頭でよしきが光に「お前、やっぱ光ちゃうやろ」と問いかけた瞬間、急にセミの鳴き声が消える演出。音の消失によって訪れる不穏な静寂が、「最も身近な異常」を演出する。
さらに、作中に登場する「く」の形をした謎の存在も恐ろしい。これはネット怪談で知られる「くねくね」がモチーフとなっていて、日常を異常が侵食してくる恐怖で物語全体を覆っていく。

原作で注目すべき表現のひとつが「擬音」だ。たとえばクマゼミの「シャワシャワ」やカエルの「ゲコゲコ」といった鳴き声が、通常のコマ割りを超えて画面全体に広がり、読者の視界を支配する。この、音が聞こえない漫画というメディアだからこそできた視覚表現が、アニメではどうなるのか気になるところだが、すでに公開されているPVでは、文字ではなく音を用いた擬音の演出が確認できる。原作の「嫌に目に響く音」は、アニメでは「妙に耳に残る音」へとうまく昇華されているので、漫画を読んだ人はアニメを、アニメを見た人は漫画をチェックすることを強く推奨したい。
舞台のモデルとなったのは三重県の山間部だ。作者のモクモクれんは、関西弁と似ていながら少し違う特徴的な方言を探し、三重弁を採用した。登場人物たちが話す方言は、架空の閉ざされた田舎の空間と、どこかじっとりと湿った空気感にさらなるリアリティと体温を与え、この作品の静かな狂気に拍車をかけている。 配色やデザインの意外性も、作品の魅力を底上げしている。たとえば単行本のカバーは、心の闇を描くホラーにはミスマッチな、明るい水色。「元気な夏」と「陰鬱な内容」のギャップが物語の不安定さを際立たせる。なお、こうした色使いはアニメ公式サイトやPVにも引き継がれており、世界観のデザインにも統一感が感じられる。
