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映画『箱男』レビュー 安部公房が50年前に予言した現代社会

2024.9.4

#MOVIE

原作からアップデートされた映画『箱男』

石井監督自体がもともと異次元への突入、変異にいたる肉体と意識の覚醒を表現することで世界にも特異なポジションを築いてきた映画作家であるが、『箱男』はまさに箱を被ることでの意識革命を描いている。原作にはまったく欠けていた要素としては、都市を縦横無尽に動き回る箱男の肉体性の敏捷さと動きが強調されていることで、特に箱男VSニセ箱男の箱を装着しながらの過敏で過激なバトルシーンは、コレオグラフィのユニークさと相まって永遠に見続けていたいほど快楽がともなう。

また、同じく箱男を目指しながら、永瀬演じる「わたし」はその箱の先代の持ち主が残したノートをテキストとして箱男としての立ち居振る舞いを日々模索しているが、浅野演じるニセ箱男はマニュアルなど関係なく、即実践。躊躇なく箱と一体化するスピード感が違う。

さらに、今作は原作には欠けていた要素として、石井作品における対立軸の目撃者として葉子(白本彩奈)と軍医(佐藤浩市)の役割が膨れ上がっていて、特に過去にヌードモデルであった葉子は見る・見られるにまつわるルッキズムの功罪を観客に突きつける役割がましている。箱を脱いだ「わたし」の前に葉子は常に裸体に近い在り方で向き合うが、それは箱など装着しなくても私は私という無防備な強さを持つ人物として「わたし」と対峙する人物像になっているからである。

葉子(白本彩奈)
軍医(佐藤浩市)

原作に色濃かったミソジニーの思想の匂いの修正に石井監督と脚本家のいながききよたかはかなり苦闘したと聞き及ぶし、それは完全には除去しきれていない部分もあるが、箱を装着することで精神の自由を得るのか、逆に考え方の固定化を図るのか、箱男の存在意義を問うものとして、葉子と軍医の持つ無敵感は無視できない。 

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