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気負わずあっけらかんと、男性中心主義と戦うロック精神
その上で、本作にあえて「ロック的」という言葉を使うのは、彼女達の出す音やアンサンブルが、自然でラフで、大胆でパワフルで、衝動的で、そしてとにかく解放的だからだ。プロダクションやアレンジに漂う「一発かましてやろう」という意図、気負いや衒いから、遠く離れたところで音を鳴らしている感じがするのである。チルな空気を纏い、洒脱なプロダクションで洗練を図った前作『Women In Music Pt. III』とは、全く趣向の異なる作品だと言えるだろう。
一方で、その前作に収録された“Man From The Magazine”における音楽業界の男性中心主義への皮肉は、本作にも通底しているテーマだ。女性トリオというだけで「自分で曲を書いているのか?」「自分で演奏しているのか?」と侮られる経験もよくあると彼女達は語るが、しかし本作では、そんな目線を気にするのは「もうやめた!」というわけなのだろう。とりわけ男性主義的なそのジャンルに、明確な意思をもってしかしサウンド的にはあっけらかんと、乗り込んでいくその姿勢もまた、逆説的ではあるがロック的であり、さらに言えばパンク的でもある。

メロディーのキャッチーさも相変わらず秀逸ではあるが、一方でこちらもこれまでで最も素朴で、ともすれば無防備な印象さえある。そういえば、彼女達がパロディした(いずれも女性だ)パパラッチ写真のセレブたちは、普段の着飾った姿とは異なって、見られていることに無意識な瞬間を捉えられ、とても無防備に見える。あるいはそれも、HAIM姉妹の狙いだったのかもしれない。自らを縛りつけるものを捨て去り、ざっくばらんで無防備な自分自身を、あえて世に晒す。そんな本作での大胆なチャレンジは、やはり実際に姉妹であり、互いを安心して委ね合えるHAIMならではのシスターフッドあればこそ、なのだろう。
HAIM『I quit』

2025年6月20日(金)発売
価格:3,300円(税込)
UICP-1217
1. Gone
2. All over me
3. Relationships
4. Down to be wrong
5. Take me back
6. Love you right
7. The farm
8. Lucky stars
9. Million years
10. Everybody’s trying to figure me out
11. Try to feel my pain
12. Spinning
13. Cry
14. Blood on the street
15. Now it’s time