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政治観の違いから友達と意見がズレていく、自身の体験が創作の種になった
タカノ:『HAPPYEND』は、構想に何年くらいかけたんですか?
空:公開した段階では7年ですかね。初長編作品だったので、無名の監督が何かを作るとなると、信用がないから時間がかかるんです。だから『HAPPYEND』の第1稿目を書いた後に、短編を2本くらい作りました。
Celeina:空さんが脚本も全部書かれているとのことですが、アイディアの種はどんなところから来ているんでしょうか?
空:自分の体験からですね。自分の気持ちに正直にいる、ということを大切にしました。小中高の友人達とはすごく仲がいいんですが、大学時代に政治のことをより考えるようになってから、大学の友人達とだんだん意見が合わなくなってくるという経験をしたんです。僕にとって友達は本当に大事な存在なんですが、振り返ってみると、地盤のように固かった友情が、政治観の違いでだんだんズレていくのが結構悲しくて。自分の人生の中で、無意識レベルでも意識レベルでも、友情関係に社会が介入してくる、ということがたくさんあったので、そういう経験をベースにしています。
Celeina:なるほど。『HAPPYEND』は高校生が主人公なわけですけど、学校って社会と繋がっているようで繋がっていない部分があったなと思い出しました。当時わかり合えたと思っていた友達たちが私もいたし、映画を観た人みんなにいたと思うんですけど、今振り返ると「あの時の友達たちはどこに行っちゃったんだろう」と思ったりしました。
空:そうですよね。僕の場合は、大人になってから出会う友達は、自分と意見が似ている人であることが多いんです。でも、子供の頃って社会の立場に関係なく同じクラスで過ごすわけですから、仲がいい悪いはあるにしろ、それなりに政治観を超えて仲良くなれたりすると思います。そういうのも素晴らしいけれども、特権的な立場の人の方が政治観の違いを無視しやすかったりするんです。両親が貧しかったり、レイシズムを経験したりした人は否応なく社会の圧力を感じるわけなので。そういった立場の違いが友情に亀裂を生むこともあり得ると思います。
タカノ:10代特有の「何でもできる気がする、でも何もできない気もする」という感覚も表現されていて、めっちゃいいなと思いました。あと未来の話っぽいというか、現実とは違う世界線を思わせるSFチックなところもあるじゃないですか。それは最初から構想としてあったんですか?
空:最初からありましたね。1923年に発生した関東大震災を契機に虐殺が起こったんですけど、その歴史を日本は反省しているだろうか、みたいなところから脚本を考え始めました。また同じタイプの地震が来るとも言われていますけど、もし本当に来てしまったら、災害による被害だけでなく、レイシズムによる差別は広まらないだろうかと考えるようになって。その結果、パラレルワールドと言ってもいいんですが、思考実験としてウン10年後の世界という設定にして、現在を反映した未来の話みたいな感じで書いてみました。大体SFとか未来の話って現在の話なんですよね。