グータッチでつなぐ友達の輪! ラジオ番組『GRAND MARQUEE』のコーナー「FIST BUMP」は、東京で生きる、東京を楽しむ人たちがリレー形式で登場します。
12月19日はバイリンガルラッパーで同時通訳者のMEISOさんからの紹介で、批評家・ビートメイカー・MCの吉田雅史さんが登場。ラッパーとして活動を始めた当初についてや、批評家としての経験を活かした最新アルバムのお話などにを伺いました。
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ヒップホップとの出会いは批評家としての芽生えでもあった
Celeina(MC):昨日登場したMEISOさんから「お茶目なプロフェッサー」という紹介をされていましたけど、お茶目な自覚はありますか?
吉田:お茶目な自覚はありませんね(笑)。でもそれを聞いて、MEISOはいいこと言ってくれるなと思いました。ラッパーなので、的確な言葉だなと。
タカノ(MC):吉田さんの笑顔を見たら、お茶目な感じをすごく感じますね。
Celeina:お話の中でも、お茶目なところを出していただきつつ。
吉田:お茶目演出をするのはやりづらいな。(笑)
Celeina:ありのままでお願いします(笑)。さあ批評家として、そしてビートメイカー、MCとしても活動されているということですが、そもそものヒップホップとの出会いからお伺いしたいです。
吉田:中学生くらいから洋楽を聴くようになったんです。最初はMetallicaとかMegadethとかメタルを聴いていて、コピーバンドもやっていたんですが、激しい音楽が好きだったんですよね。1990年代ってロックとヒップホップのクロスオーバーが盛んな時代で、その流れでPublic EnemyやIce Cubeに出会ったんです。ノリの激しさから好きになったんですけど、ラップは言葉がメインなのに、英語が分からないまま聴いていたので、これはまずいなって思ったんです。それで社会の授業で自由研究があったんですけど、そこでPublic Enemyのリリックを勉強して発表したんですよ。公民権運動の勉強とかもしました。
Celeina:その曲の背景まで調べて発表したんですか?
吉田:リリックには思った以上に重要なことが書かれていたので、これはちゃんと責任を持ってみんなに知らせないといけないな、という謎の義務感で。
タカノ:吉田さんの今のお仕事にも繋がっていますよね。
吉田:そういえばあの当時からこんな感じだったんだな、と改めて思いますね。
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20代からはアンダーグラウンドなシーンでラッパーとして活躍
タカノ:ラッパーとしての活動を始めたのは何歳ぐらいからでしたか?
吉田:ラッパーの活動を始めたのは2000年頃で、20代になってからです。8th wonderというグループをやっていたんですが、メンバーとはクラブで出会ったんですよ。そのときは外国人の友達とクラブに遊びに行っていて英語で喋っていたので、後の8th wonderのメンバーにも英語で「ヒップホップ最高だよね〜」とか話かけていた。お酒も入っていたからか、なぜか日本語はカタコトの設定で(笑)。でも別の日本人の友達と日本語で普通に喋っているところを見られて、「お前さっきは英語で話かけてきていたけど、日本語もペラペラなんじゃねえか!」ってツッこまれたんです。そこから気づいたら仲良くなって、一緒に活動していくことになったんです。
タカノ:そんな始まり方があるんですね(笑)。当時はどういうシーンでしたか?
吉田:出会い方からしてパーティーラップをやりそうなイメージかもしれないんですけど、違うんですよ。当時のヒップホップシーンとしては、アメリカでは1990年代後半からヒップホップがどんどん商業的になっていたんです。そこで、本物のヒップホップはポップで商業主義的なものじゃないということで、アンダーグラウンドなヒップホップをやる人たちがどんどん増えて、新しいスタイルが更新されていく感じでした。それに日本も歩みを一緒にしていた時代だったんですが、そこに自分たちも出ていったので、超アンダーグラウンドなリアルなヒップホップをやっていました。DJ KRUSHさんがシーンを引っ張っていて、THA BLUE HERBや降神とかが出てきたタイミングだったので、シリアスでヒリヒリするようなシーンでしたね。
タカノ:その当時の空気感を現場で感じているなんて、すごいですよね。
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トークスペース「ゲンロンカフェ」で行われた『批評再生塾』で優勝、批評家の道へ
タカノ:その後に批評家になるんですよね。
吉田:2015年に、東浩紀さんが立ち上げた「ゲンロンカフェ」というトークスペースで、批評家の佐々木敦さんと一緒に『批評再生塾』というものを始めたんですよ。生徒たちを募ってコンペティション形式で批評文を読み書きし、批評家を育てて批評を再生しようというようなプロジェクトがあったんですが、その現場にたまたま居合わせたんですね。
タカノ:たまたま居合わせた。
吉田:ゲンロンカフェのイベントにちょくちょく行ったりしている時期だったんですが、「今から批評再生塾を始めます」というところにたまたま居合わせたんですよ。批評文どころかまともな論文も書いたことがなかったんですけど、直感的に「行くしかないな」と思って応募したんです。参加してみたら本気のバトルだったんで、その熱に浮かされて、気がついたら1年戦った末に優勝に漕ぎつけたんです。
タカノ:凄いですね! MCバトルではないですよね?
吉田:MCバトルではないですね。(笑)
タカノ:ラップと通じるものがありそうで面白いですね。
吉田:戦いの仕組みは近かったですね。
Celeina:批評のテーマはどういったものだったんですか?
吉田:2週間に1回、文学、思想、映画や音楽といった色んな分野の講師の方を招くんですけど、それまでにお題が公表されていて、そのお題にそった批評文を事前に書いておくんですよ。その中から3本が選ばれて、その場で自分の論文がいかにすごいかというプレゼンをして、バトルするんです。だから文章力だけじゃなくてプレゼン力とかも試されましたね。
Celeina:結構スパルタですね。でもステージに立った経験がその時に役立ったんじゃないですか?
吉田:それはあるかもしれないですね。
タカノ:ラップも自分の言葉を紡いで吐き出す音楽だから、その辺は繋がる気がしますよね。
Celeina:『批評再生塾』を経て、そこから本格的に批評家として活動をスタートされたということですが、どういった分野に携われているんですか?
吉田:『批評再生塾』の時はヒップホップのことを書こうとは思っていなかったんですけど、最終論考だけはヒップホップで論述して賞を頂くことになって。この経験を通して、やはりヒップホップって言語化が難しいジャンルだというのを実感したので、今はヒップホップ批評をどう展開できるかをテーマにして活動をしています。
タカノ:ここで1曲挟みたいと思うんですけれども、吉田さんにこの時間にラジオでみんなで一緒に聴きたい曲を選んでもらいました。どんな曲でしょうか?
吉田:大変恐縮なんですが、自分の曲なんです(笑)。最近、口頭遊民ダコタというヒップホップコレクティヴで活動をしていまして。そのアルバムからリードトラックの”自威”という曲を聴いていただければと思います。