グータッチでつなぐ友達の輪! ラジオ番組『GRAND MARQUEE』のコーナー「FIST BUMP」は、東京で生きる、東京を楽しむ人たちがリレー形式で登場します。
9月28日は大友克洋研究家の鈴木淳也さんからの紹介で、雑誌『季刊エス』『スモールエス』の編集長の天野昌直さんが出演。幅広いジャンルのイラストレーターを紹介する雑誌に携わりながら、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのCDジャケットを手がける中村佑介さんの画集を担当した天野さんに、『季刊エス』『スモールエス』の誕生秘話、イラストと音楽のコラボレーションの歴史について伺いました。
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イラストを取材する雑誌『季刊エス』ができるまで
Celeina(MC):日本のイラストレーションの歴史と重なる雑誌『季刊エス』そして『スモールエス』が、改めてどんな雑誌なのかご説明をお願いします。
天野:『季刊エス』はイラストや漫画、アニメを取材している雑誌で、妹雑誌の『スモールエス』は小中学生が読むような、絵を描きたい若い人に向けて「絵を描こうよ」とお勧めする本です。
タカノ(MC):どんなイラストレーターの方々が『季刊エス』に載るんですか?
天野:例えば、ゲームやアニメでキャラクターをデザインする人から、絵本の絵を描く人、広告やCDジャケット、動画、ミュージックビデオの絵を描く人とか。ビジュアルを描く人には皆さん出てもらっていますね。
Celeina:天野さんがイラストに興味を持たれたきっかけは何ですか?
天野:私は元々、主に現代美術とかを扱う雑誌『美術手帖』を制作している出版社にいました。そこで、「絵を描きたい」という学生たちが、意外と現代美術じゃなくて、漫画やアニメに影響を受けていることがわかり、そういった分野を作家志望の人たちに紹介しようという機運が出てきたんです。そこで、特にイラストは、漫画、アニメが表現している物語やテーマ性を、1枚の絵に世界観として凝縮させるところが美術にも近いと感じていたので、積極的に紹介していこうと思いました。
タカノ: 天野さん自身がイラストをすごく好きだからというよりは、時代の流れを見て、このような活動をしていこうという感じなんですね。
天野:そうですね。漫画家さんに取材する雑誌として始まったんですけど、時代としてイラストレーターに素晴らしい才能が集まってきていました。だから、漫画家さんだけじゃなくて、イラストレーターという表現者たちに注目したいと思ったんです。
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イラスト×音楽のコンビネーション
Celeina:天野さんのお仕事の中から音楽にまつわるものをピックアップさせてもらいました。まず、アジカンのCDジャケットを手がける中村佑介さんの画集の編集を担当されたんですよね。
天野:元々、中村さんは音楽が好きな人で、学生の頃からフライヤーを描いたり、音楽に関わるものをよく描かれていたんです。中村さんがアジカンに出会った頃は、まだお互いに駆け出しで、最初にアジカンのライブに行ったときは、お客さんが数人ぐらいしかいなかったそうです。でもその頃から中村さんはアジカンが好きで、アジカンの後藤さんも中村さんの絵が好きだったらしいです。アルバムが出るときには、ジャケットを担当できれば、という話をお互いに話していて、メジャーデビューのミニアルバム『崩壊アンプリファー』や1stアルバム『君繋ファイブエム』のジャケットを中村さんが描くことになったそうです。アジカンがメジャーデビューしていくのと同時に、中村さんもイラストレーターとして世に出ていって、両方が知られていくような形で発展していくのを見ていました。
中村さんが学生の頃に、私たちの雑誌(『季刊エス』の前身である『Comickers』)にイラストを投稿してくれていた経緯から、中村さんとは縁があったのですが、私が『季刊エス』を創刊しようと思っていた2013年頃に、レコード屋さんで中村さんが描いたアジカンのジャケットが並んでいるのを見て、「これは取材したい!」と思いました。自分たちの雑誌が出て発展していくときに、中村さんもアジカンも世に出ていき、やがては画集を出版するという繋がりがあったことが印象深いです。改めて作品を見直して、音楽と絵の理想的なコラボレーションを感じさせてもらいました。
タカノ: 確かに言われてみれば、イラストと音楽のコンビネーションとしてすごく有名ですもんね。
Celeina:代表格!
タカノ: 音楽のジャケットがメディアになるというか、イラストレーターさんにとっても、発表の場になっている面もありますね。
Celeina:天野さんの編集部は他にも、松本理恵さんが監督、BUMP OF CHICKENがテーマソングを書き下ろした、ロッテ創業70周年のスペシャルアニメーション『ベイビーアイラブユーだぜ』が完成されるまでを掘り下げたアニメーションブックを刊行されていたり、まふまふ、天月といった超人気歌い手のミュージックビデオやグッズのイラストを手がけるイラストレーターの茶々ごまさんの画集や来月の展覧会も担当されていたりするんですよね。
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イラストと音楽のクロスカルチャーは日本独自
タカノ: ボカロ文化についても聞かせていただきたいのですが、先ほどのミュージシャンとイラストレーターがタッグを組むというお話で、今はボカロ文化のほうがイメージは強いかなと思うんですけど、これは日本ならではの文化なんですよね。
天野:音楽とビジュアルでいうと、ミュージシャンたちが演奏するMTV的なミュージックビデオがまず主流で、バンプと松本監督のコラボみたいにアニメーションを使った作品もずっとありますよね。そういうプロジェクトとはまた別で、ある時から、草の根でインターネットを使って創作する人たちが作品を発表しやすくなりました。そこでは、もともと歌うのがボーカロイドだったこともあり、自分が映像に登場してプレイするのではなくて、作品のためにキャラクターを作ったり、イラストレーターさんに頼んでビジュアルを描いてもらったほうが、その曲の世界観をより伝えられるという思いがあったと思うんです。日本だと、漫画やアニメ、イラストの文化がすごく浸透しているので、そういうキャラクターが登場する映像で楽曲の世界観を表現する。自分の姿よりも、楽曲の世界観を忠実に体現できるだろうと。そういった動きがボカロ文化でずっと発展していって今があると思うんです。
まふまふさんはご自身が姿を見せて、紅白歌合戦にも出られましたけれど、今でもイラストは茶々ごまさんにお願いしていて、ずっとその関係も続いています。10月に展覧会を行うんですけど、茶々ごまさんの絵を音楽から知った方がとても多いです。多分、キャラクターが楽曲の世界観を表してくれるという発想は、今のVTuberのような、キャラクターをアバターとして活動する流れにも繋がっているような気がしますね。
Celeina:イラストレーターと音楽をやっている人が繋がって、そこの架け橋を作ってくれたことによって、ファンもどちらにも行き来できるから、フィールドがどんどん大きくなってきたような感じもしますよね。
天野:そうですね。お互いのファンが合わさるので、そこがまた大きいことになりますよね。
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「繋がりたい」と「共感」から作品が生まれる
Celeina:このカルチャーの年齢層が下がってきていると聞いているんですが、実際どうですか?
天野:イラストを私たちの雑誌に投稿している若い層に話を聞くと、小学生の頃からボカロの動画を観たり、プロセカ(プロジェクトセカイ)をやっていたりするんです。小学生の頃からそういうものを観ていて、特に「歌ってみた」という文化があるので、低年代から自分でもやってみようかなって思いやすいんですよね。人気曲を自分で歌ってみて、発表するようになります。だから、絵を描いている中学生ぐらいの子たちと、「歌ってみた」で歌っている中学生の子たちが、年齢層が近くて趣味が一緒だということで集まって、自分たちでミュージックビデオを出していく。そういう動きが結構盛んですよ。
Celeina:そんなことが行われているんですか? すごいな! そんな子たちが大人になったら、さらにすごいことになっちゃいますよね。
タカノ: 中学の頃からイラストを考えて発表したり、将来DTMerになりたくて、音楽を作ったりという経験をしていると、将来すごいことになりそうですね。
天野:中学生が個人活動としてライブハウスに出演するのは無理だけど、ネットにアップすることはできる。この点も発展の大きな理由だと思います。
Celeina:これまで長くイラストレーターの方や趣味としてイラストを描かれている方と触れ合ってきた時間が長いと思うのですけれども、時代を経て、変化は見えてきていますか?
天野:そうですね。1980年代だと、みんな見ているものが同じだったので、そこから抜きん出ようとか、人と違うことをやって飛び抜けようという人たちがいたと思うんです。だけど、今はもうとにかく情報や物が多くて同じものを見ていない。なので、「違うことをしたい」という気持ちよりは、同じ趣味の人がいたという共感の喜びのほうが大きくて、同じ趣味の人たちと共感したり繋がったりすることで、気持ちをシェアするほうに意欲が向いていると思います。音楽や絵をきっかけに友達が出来ることは昔からありますが、今は特に「繋がりたい」という思いが強くなった気がしますね。
Celeina: 「繋がりたい」と「共感」なんですね。
天野:そうですね。
Celeina:それではここで1曲、天野さんにこの時間にみんなで聴きたい曲を選曲していただきました。選曲した理由から教えていただけますか?
天野:これは洋楽なんですけど、イラストを紹介するという私の活動を「世界でもっと広げたい」と言ってくれたアメリカの会社の人がいて、その人に呼ばれて1人で渡米したことがありました。1人孤独なアメリカのバスの中でずっと聴いていた曲です。当時、イラストが世界に広がっていくのかなって思いもあったので、思い出深くて感慨深い曲なんですよね。
Celeina:それでは曲紹介お願いします。
天野:シモーネで“Tô Voltando”。