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現代的である、という評価の二つの側面
それゆえに、『ジークアクス』の評価は、単体としてのアニメシリーズとして見た場合と、SNSの情報も含めてリアルタイムで楽しんで見た場合とで大きく変わるだろう。筆者個人の意見としては、『ジークアクス』の作劇や戦争の描写は、1979年の『機動戦士ガンダム』をベースにした作品としてはあまりにも多くのもの――戦争への批判的態度や、いま私たちが生きる社会への批評性など――が抜け落ちていると思える。
一年戦争という50億の人々の命を奪った最悪の戦争は、ララァという一人の少女の願いによって繰り返すマルチバースという設定によって相対化され、はかない恋の物語に収束する。豊かな暮らしの中で鬱屈を抱えていた少女・マチュが個人的な成長と自己実現を達成する一方で、故郷を追われた難民の少女・ニャアンは状況に流されるまま大量虐殺の当事者へと導かれる。
死は物語の甘い彩りとなり、持てる者はその手を直接的に汚さずに済む人生を寿ぐ。その態度はかつての、この作品が参照している、もともとの一年戦争において、人の革新を夢見た人々の思い描いたビジョンではないはずだ。 この46年間のあいだで変化した、決して良くはならなかった現実のありよう、そして戦争の時代としか言いようのない今の世界に対する私達の態度を、私は『ジークアクス』を通して痛感することとなった。
しかし同時に、「今、ここ」で皆と一緒にアニメを楽しみ、ゴージャスな画面にちりばめられた情報を読み解き、共有して作品を自分ごととして受容するという楽しみ方は、間違いなく現代のアニメ作品の鑑賞態度として最先端のものであるだろう。『ジークアクス』の作品内では、ニュータイプはマルチバースに存在する別の世界線を認知する能力を有するような描写が見られたが、SNSという情報交換の場とそれを通じて作品理解を進めていく態度は、『ジークアクス』内のニュータイプ的な感応とそう遠くはない。
上記の意味でも、『ジークアクス』は1979年に『機動戦士ガンダム』がもたらしたアニメという媒体の革命を、現代的に定義し直した作品とも言えるだろう。来るべき50周年に向けて、現在のアニメのありようを確かめ、「ガンダム」というコンテンツのポテンシャルを世に知らしめた作品として、『ジークアクス』は記憶されるに違いない。
『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』

監督:鶴巻和哉
シリーズ構成:榎戸洋司
キャラクターデザイン:竹
メカニカルデザイン:山下いくと
原作:矢立 肇/富野由悠季
脚本:榎戸洋司/庵野秀明
制作:スタジオカラー/サンライズ
製作:バンダイナムコフィルムワークス/日本テレビ放送網
公式サイト:https://www.gundam.info/feature/gquuuuuux/