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1人でいい、それぞれの孤独があってこそつながれる
─テライさんの孤独の捉え方について聞かせてください。私自身、「こうあるべき」「何者かにならないといけない」という社会の価値観にとても引っ張られやすくて、自分を持ち続けることが難しく感じる時があります。そんな中で、GOFISHの楽曲はその引っ張りを戻してくれる間(あわい)を音楽で生み出してくれているように感じました。そうした空気感や距離感について、意識されていることはあるのでしょうか?
テライ:うれしいです。俺は主義がない、主張もない、何者でもないものを歌おうとしてるので。聴く人が肉付けをして、綺麗な場所に辿り着いてくれたらうれしいです。それと、音楽を作るのは、孤独を自分でなんとか肯定するためっていう部分もあるんです。音楽を作るってこと自体が基本的に自分を慰めるためで、「1人でいい」、そんなメッセージが通低音としてずっとあります。
─孤独に対する葛藤はずっとあったんですか?
テライ:孤独はずっと感じてますね、本当に小さい頃から。
─テライさんの孤独という言葉からは、世間で言われている冷たさみたいなのってあまり感じられませんよね。
テライ:そうですね、でも表裏一体だと思いますけど。1人の場所はとても幸せな場所じゃないですか。ちゃんと自分の孤独が用意されてるから人とも接触できるし、人がたくさんになって孤独のスペースがなくなってきたら、それは窮屈ということにもなるだろうし。みんながそれぞれの孤独を尊重するのは、素敵な世の中でもありますよね。

─ライブでGOFISHを見るお客さんの姿からも、それぞれの個人が守られている状態で居続けられているなととても感じていました。
テライ:同じタオルを巻いてみんなで拳を上げるとかはやめてくれって絶対言うと思う(笑)。まあでも、そういうのが楽しい人たちもいるわけだから。
─人とのつながり方について言えば、アルバムの楽曲である“真顔”からは、「他人とは完全に分かり合えない」という前提があるように感じました。テライさんは、そうした「分かり合えなさ」をどう捉えていますか?
テライ:“真顔”の場合は、あくまで例えなんですけど、「沈みゆく船」をみんなで見る、それが大事なんじゃないかなと。 見ているものは一緒だけど、そこにいる人たちはそれぞれの孤独を抱えている。そうやって、孤独なまま同じものを見てるっていう構図がすごく美しいなと思うんです。それぞれの解釈、それぞれの気持ちがある。そのことを尊重したいし、それがつながりの1つなんじゃないかなと思うんです。このことが本当に大事な気がする。
それぞれがね、それぞれの考えを持てばいいと思うけど、同じものを見てもなぜか2極にばっかり分かれるじゃないですか。あれは一体何なんですかね、本当に何なんだろう。
─強い方に惹かれてしまうんですかね。
テライ:なぜ右と左でそんなに綺麗に分かれることができるんだろうって、すごい不思議なんですよね。1つのトピックの中でも、「この事件のこの部分は右に共感するけど、ここは左の気持ちも分かる」とかあってもいいのに。本当にどう思ってるのか知りたい。でもそれって、SNSじゃ絶対に分からないですよね。
ー(編集・柴田)それぞれの孤独を抱えたまま同じ景色を見ている状況に美しさを感じると話されていましたが、その考えのきっかけになった出来事はありますか?
テライ:”真顔”の「沈みゆく舟をみんなで見てる」というフレーズは、コロナ禍の時に思いました。政治や日本という国が、そういう沈んでいく舟のようだけど、その状況を市井の人たちはただ傍観している。特にこの曲に政治的な意味を込めたつもりはありませんが、あの頃は国民を見捨てているように見える政策や対応もありましたよね。ただ、沈んでいくのはあくまで「国」という抽象的な概念だけであって、そこで生きている一人ひとりは、それとは別にちゃんと生きている。そういう実感が、この言葉の背景にはあります。
