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星野源『Gen』レビュー 6年半の試行錯誤の果てに出した、ひとつの解答

2025.5.16

#MUSIC

海外アーティストの起用と多言語的なアプローチ

トラックリストや参加アーティストを見れば、『Gen』がこうした6年半の活動、とくにコラボレーションを通じて蒔いてきた種がきちんと芽吹き、実を実らせた作品であることはすぐに感じられるだろう。

たとえば、本作でフルバージョンが初お披露目となった“Mad Hope”では、ルイス・コールがドラムに加えてボーカルも披露し、さらに“Glitch”でもコールがドラムをプレイ。彼らしいややジャンクな鳴りの手数の多いドラムが、まったくそのまま日本のポップミュージックのなかで響いていることには少し驚く。特に“Glitch”での、人力で高速ブレイクビーツを刻むようなプレイと、BPMをハーフでとったようなバラード然としたトラックのコントラストには、めまいを覚えるほどだ。

2023年の「so sad so happy」で披露された、UMIとCamiloをフィーチャーした“Memories”は、その意欲的な構成に驚かされる。DX7のエレクトリックピアノのイントロをぶった切るように登場するベースとドラム(そしてパッド)だけのミニマムなアレンジは、親密さのなかに緊張感をもたらしているし、サビの深い低音の響きは身体をつつみこむかのようでもある。そしてなにより、UMIと星野源とCamiloがそれぞれ英語・日本語・スペイン語で、同時に、ほぼ同じメロディラインを歌うパートの大胆さ。トリッキーなギミックになってもおかしくないアイディアだが、真っ向から取り組むことでストレートに響いている。

イ・ヨンジが韓国語と日本語と英語でラップする“2”も、マルチリンガルなポップミュージックとして意欲的な楽曲だ。英語ではじまったかと思うと唐突に日本語が登場。ちょっとした緊張感と共に意表をつかれているあいだに、歯切れのよい韓国語のラップが響いてくる。そんなイ・ヨンジのパートに対して、星野源本人はほぼフックの歌唱に専念して、楽曲のメロディアスな部分を担う。“Mad Hope”でのルイス・コールの歌唱パートや、“Eden”でのCordaeのラップも含めれば、星野源のアルバムがこんなかたちで多言語的アプローチを多用することは、予想はできたかもしれないけれど、とても新鮮で、感慨深くもある。

言葉という点では、近年の星野源は自分の姿を投影するような歌詞を書くようになったことがインタビューなどでもしばしば語られている一方、本作では逆に意味を吹っ切る言葉遊びのような歌詞も鮮やかな印象を残している。その最たる例が“Mad Hope”で、ダダ詩のような単語の羅列がスピリチュアルなイメージを連鎖的に編んでいく。個人的に本作のベストトラックのひとつ、“Melody”も韻とメロディに導かれて言葉が溢れ、イメージをかきたてる楽曲だ。ブラジル音楽的なエッセンスを折り込みつつ、コードによるバッキングというよりアルペジオで構成したアレンジも素晴らしい。サビで聴かれる映像的な印象を強める2音節のシンプルな言葉の羅列は、名詞の羅列が詩的な情景を紡ぎ出すアントニオ・カルロス・ジョビンの“三月の水”の歌詞を思わせる。

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