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一冊の辞書のように描かれる、言葉を巡る様々な思い

エンドロールのキャストの羅列が、辞書のようなデザインになっている本作は、まるでドラマじたいが一冊の辞書のようだ。本作を観ることで、視聴者はひとつの言葉に込められた様々な意味を知れるだけでなく、言葉を巡る、人々の様々な思いも知ることができる。何より本作の優れたところは、辞書の言葉の意味が複数の語釈から成っているように、一つひとつの事象にいくつもの「語釈」を重ねることで、ドラマそのものに広がりを持たせていることだ。
例えば、第1話は、海を前に涙するみどりの姿から始まる。恋人・昇平(鈴木伸之)に去られ、彼女の感情が変化していく様子を、「嘆息」「涕泣」「嗚咽」「慟哭」という言葉と語釈を画面上に表示することによって示した冒頭は、本作が「辞書」を描く作品であること、尚且つ、言葉を通して人の感情の機微を事細かに描いていく作品となるだろうことを象徴的に示す。また、みどりに会う前の馬締が、「岸辺みどり」という名前に対して抱いた「岸辺に立って紺碧の海を見つめる」というイメージ。それは、第4話において松本がみどりについて言うところの「神仏に祈り授かった子という意味での申し子」というイメージとも重なる。
第1話の最後にもう一度、時系列順に従う形で冒頭の海の場面が示された時、今度は、自身の頬を伝う涙の跡から、自分なりの「右」の語釈を思いついたみどりの姿が描かれることで、みどりがついに「辞書」の世界に足を踏み入れたこと、並びに、本作そのものが次の展開へと向かっていく様子を視聴者は見て取れるのである。