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「今」の肯定により、辛かった過去も受け止める

「年とるってさ、いいこといっぱいあるんだけど、そのうちの1つが、その先が見れることだと思うんだよね」
これは、第7話における、みどりの元上司・凛子(伊藤歩)の台詞だ。人間関係の変化のみならず、「挫折が本当の夢のはじまりだったり」するといった、誰かの人生が好転する様子を目の当たりにすることを「ハッピーなその先が見れるのって嬉しい」と表現する凛子。そして、そんな彼女からの言葉を受け止め、その後の第8話で父・慎吾(二階堂智)との会話に活かすみどり。本作の登場人物たちは、例え悲しい過去があったとしても、過去の「その先」であるところの「今」、ともに過ごすことのできる幸運を喜ぶがゆえに、その人にとっては辛かった過去ごと受け止める。
例えば第6話で「よかったね、その日にりょんぴーがみどりちゃんと同じ帽子をかぶって、SNSにあげてくれて」と馬締に話しかける香具矢(美村里江)の台詞。それは、みどりがかつてファッション誌の読者モデルをしていた頃、謂れのない「匂わせ疑惑」によって炎上したことが、回りまわってみどりが辞書作りに情熱を注ぎ、馬締と香具矢と暮らす幸せな今に繋がっていることを示している。
さらには同じく第6話、天童(前田旺志郎)が子どもの頃、松本(柴田恭兵)と出会っていたことをみどりに明かす場面もそうだ。みどりは「すごいね、その時、松本先生が通りかからなかったら。天童くんがその映画見て歌詞が悔しくて泣いてなかったら。その歌詞が悔しいって思える天童くんじゃなかったら、今、天童くんはここにいないんだね」と天童に言う。それは、松本と天童の運命の出会いも、天童の過去も彼自身も、そして、彼とともに辞書を作ることができている今この瞬間をも、肯定する言葉だ。