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効率と結果の時代に、石橋英子は音楽にどう向き合っているか
―今、石橋さんはアルバムという形態で自分の音楽を出すことの意義を感じますか?
石橋:私、今でもサブスクがあまりわからないんですよ。何々のプレイリストに入りましたって通知を見ても、よくわからないまま、通り過ぎます。
ープレイリストを作っている人たちのお眼鏡に適って、楽曲がリストに入れば注目が集まって再生数が伸びる、という構造があるわけです。
石橋:そもそも私は、そういうところから程遠いところにいたいのかもしれないです。
―一方で、影響力のあるプレイリストにかかるかどうかは、音楽家にとって死活問題ではないですか。
石橋:そうなのかもしれませんが、無理に影響力のあるプレイリストを目指したり、人の評価を気にしすぎて縮こまるよりかは、はみ出していても作りたいものを作り続けるほうが長く聴いてもらえると思うのです。

―とはいえドナルド・トランプやイーロン・マスクのような人たちが牛耳る世界で音楽をやって生きていくのは、本当に大変なことだと想像します。
石橋:そうですね。音楽を作っている人の間にも、「人の期待に応えなきゃ」「結果出さなきゃ」というような焦燥感が蔓延している気がします。
―焦燥感ありますよね。世間的にもあると思います。
石橋:効率化もそうですし、それは音楽に限らずですよね。でも私、音楽を作る動機はもっと狭くていいと思うんです。例えば本当に仲のいい友達のためだけに作るでもいいし、そういう音楽が結局一番尊い気がします。
誰かに宛てた手紙のような音楽ほど尊いものはないし、プレイリストに乗ることよりも大事だと思う。そういう何かがあったら自然と1枚アルバムになるとも思うんですよね。
―さっきの自己責任論もそうですが、そうしたことを骨抜きにしようとする力もあるわけですよね。
石橋:そうですね。自己満足でしょ? みたいな。真面目な人こそ、そういう構造に飲み込まれてしまうところもあると思います。
―真面目に取り組むからこそ、無自覚にからめとられてしまうのが怖いところです。
石橋:だからもっとくだらないことやって、アルゴリズムから外れるような無駄の多い時間を過ごしたいと思います。自分でも自分が読めないようなカオスを作りたい。
―石橋さんの音楽もそういったものとしてあるんですか。
石橋:少なくとも、自分が今まで聴いたことのないものを、自分がびっくりするような音を探しながら作りたいです。
―でもそれが一番シンプルかつわかりやすい挑戦ですよね。
石橋:そうですね。商品を作ろうとしているわけではないですから。でも厳しい道ではあります。時間がかかるし正解があるものではない。一歩一歩は小さいし、勇気がいる。でも平出さんのように歴史の一点として、未知なるものへ歩みを進めていけたらと思っています。

石橋英子 『Antigone』

2025年3月28日(金)リリース
1. October
2. Coma
3. Trial
4. Nothing As
5. Mona Lisa
6. Continuous Contiguous
7. The Model
8. Antigone
https://lnk.to/antigone