INDEX
怒りやシリアスさの隙間から漏れる、笑ける感覚
―今回のアルバムの構想や曲順、あるいは歌詞はどの段階でできたんですか。
石橋:歌詞は全曲揃ってからですね。
―その段階でコンセプトは立ち上がってきた?
石橋:はい。墓場です。
―ジャケット含め、そうしたイメージはあります。お墓は日本ですと共同体の縁(へり)というか、生とその外側を分かつ境界的な側面がありますよね。
石橋:そうですね。そういうことを考えていると、にやけてくるんです。お葬式でもどんなに悲しくても、どんなに仲いい友達が亡くなったとしても、ちょっと笑けてくることがありますよね。

―おっしゃることはわかります。なぜこんなことになっているのかっていう事態がちょっとありますね。
石橋:そう。
―先ほどのアルピニストの方以外にも、身近に亡くなられた方がいらっしゃるんですか。
石橋:昨年の夏に、同い年の仲良くしていた友達がガンで亡くなりました。その方は香水やキャンドルを作っていて、彼女のキャンドルと私のレコードをセットにした作品を作ったこともあります。彼女はすごい毒舌で、手厳しいことしか言わないんですよ。そういう友達ってあまりいないし、そんな人がいなくなるのはすごく悲しいです。
―石橋さんの音楽に対しても厳しいことを?
石橋:よく言ってくださいましたね(笑)。
―キャリアが確立されるとそういうことを言ってくれる人もだんだんいなくなってきますよね。
石橋:キャリアは確立されてませんが(笑)、厳しいこと言ってくれる人にいつも助けられて生きてきました。
―歌詞も独自の境地に達したなと思いました。
石橋:やっぱり、どこかふざけて作ったところもありますよ。すごくシリアスなことを考えているがゆえに、ふざけたい気持ちが働く。そこからだんだんとスルスル書けるようになりました。
―“Antigone”に<法を濡らす>という一節がありますよね。「頬」とかけていると思うんですが、言葉のセレクトに感服しました。
石橋:曲も浮遊感がある曲か増えたから、歌詞は少し暴力的な、ゴツゴツした砂利道みたいなイメージです。
―その砂利道みたいな言葉を発する際も、いろんな聞こえ方にするようなところがありますよね。何を歌っているのかを考えさせる効果というか、石橋さん独自の歌唱法もまた一段階、階梯を昇った感じがしました。
石橋:よかったです。私はもうただ必死で、曲に合うように歌いたいだけで技巧的なものは何もないですけどね。
―“The Model”の歌詞には「臓器」という言葉が出てきますが、この言葉でハモっている曲を初めて聴きました(笑)。
石橋:みんなで大合唱したい。
―この曲は人間の身体が商売道具になる / されるという、よくよく考えると怖い状況を指摘している歌詞だと思います。
石橋:そうですね。濱口さんに音楽好きALSの方を紹介していただいて、安楽死のことを考えるようになったこともこの曲にすごく影響している気がします。
安楽死を認めるべきケースもあるとは思いますが、それを社会的に容認した場合、病気になった人は死ぬべき存在とみなされる危険がありますよね。そういう視点を本当に切実な視点で考えたことがなかった。
―寝たきりの方はきっと、自分は生きている価値がないと思っているに違いない、と他人が決める怖さはあります。
石橋:そうですね。身近な人が、周りから死ぬべきだって肯定されてしまうのは本当に悲しいことだと思うんです。