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石橋英子が今、音楽に向き合い思うこと。『Antigone』に託す怒り、どっちつかずの肯定

2025.5.30

#MUSIC

『Antigone』というタイトルに託した「どっちつかず」であることへの肯定

―『Antigone』というタイトルについてはいかがでしょう。

石橋:このタイトルは、ここまでお話した違和感をどう言葉にしたらいいか考えたときに出てきました。アンティゴネーは家父長制に対抗する女性像として語られることが多いですよね。

でも私は、迷いのなかにあること、ボーダーの上で常に葛藤しながら生きていく感覚をアンティゴネーの物語に感じます。「私はこれ」と強く意思を表明するより、自分や自分が属する世界は正しいのだろうかと疑って多様な価値観の間にいる感覚。『Antigone』というタイトルは、そうしたところから出てきたと思います。

―多様な価値観の間で漂っている?

石橋:そう。その間に墓場があるというイメージです。

―嫌じゃないですか、「墓場」なんて見出しは(笑)。

石橋:(笑)。私、子どもの頃からスパイに憧れていたんです。それはアンビバレントなところにいる人に対しての興味があるというか。

―スパイの「二重性」に憧れていたわけですか?

石橋:そうです。

―今の時代は「決定しろ」という圧力は強いですし、どっちつかずで、両軸にかかっている状態は一番嫌われる。その一方で、否応なしに両義的なところに望まなくても立たされてしまうような状況もありますよね。

石橋:今、一人ひとりがいろんなレベルでそうしたところに立たされているのではと思います。ルイス・ブニュエルの『銀河』(※)という映画があるんですが、そこに出てくるキリストはなんとなくお水をお酒に変えているような変えてないような、盲人を治したような治してないようなブレブレな感じで、そのアンニュイさがたまらない。

―キリストを絶対的なものとして描いていない?

石橋:その描写によってかえって「正しさ」がブレない人間の滑稽さや恐ろしさが浮かび上がってくる。

※2人の巡礼者を主人公にした1968年製作の映画。巡礼の途上で出会うキリストや聖母マリア、さまざまな異端に関する内容といった宗教的描写は「厳密に正確である」と作中で示され、引用された文章やテキストは聖書もしくは古典的な神学書および教会史の著作に基づくものとして制作されている(2025年4月現在、U-NEXTなどで視聴可能)

―実際のキリストも優柔不断だったかもしれないわけですから。

石橋:迷えるひとりの人間だったかもしれませんよね。

―今そうしたところに想像を働かすことを止めてしまう傾向がありますよね。

石橋:想像すると不安になってしまうからなのでしょうか。

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