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「自己責任」という言葉、表現活動する人間への見えない圧力
―こうした世相や音楽に触発されて作り始めたわけではない?
石橋:少なからず反映されているかもしれないですが、世相を取り上げようとしたわけではなく、そのときの気分や自分が日々生活で感じていることが言葉になっているのだと思います。そんなに真剣に歌詞を書くつもりではなかったのに、どうしても込み上げる何かがあったのかなという気はします。
―そのアゲインストな感じはひしひしと伝わりました。
石橋:あとは身近な人が亡くなったことが作品に影響してるところもあると思います。2023年に知り合った方なんですが、平出和也さん(※)というアルピニストの短編ドキュメンタリーの音楽を作ったんです。
2024年7月に平出さんがK2の西側の未踏のルートにチャレンジするから、長編ドキュメンタリーの音楽もお願いしたいという話をいただいて。でも彼は戻ってこなかったんです。そのとき、ネットで関係のない人が好き勝手なことを言っているのを目にしました。平出さんのやろうとしていたことはとてもクリアでした。登山を通して伝えたいことがあった。でも理解しようとしない人こそ大きな声で勝手なことを言う。勘弁してほしいですね。
※日本を代表するアルパインクライマーで、山岳カメラマン。中島健郎とのペアでよく知られ、「登山界のアカデミー賞」と呼ばれる『ピオレドール賞』を3回受賞。2024年7月に世界第2位の高峰K2(標高8611メートル)の西壁未踏ルートに挑戦するも滑落、中島とともに帰らぬ人となった
―「何もせずに家にいろと言うのか」と思うような意見、「創作に税金を使わせるな」というようなロジックも目にします。
石橋:本当にそういう人たちの声が年々すごく目立つように感じますね。ISISに殺害された後藤さんのときもそう思いました。
―2015年に亡くなったフリージャーナリストの後藤健二さんのことですね。そうした声をあげるメンタリティーはなかなか理解しがたいですけども、本当に身近にいる人たちなのだと思います。
石橋:そうですよね。普通に日常生活の近くに存在している。
―「音楽家の責任」のようなものが作品の背後にある気がしたのですが、さすがに大袈裟でしょうか?
石橋:音楽家の責任……実はアーティストは何も背負うべきではないと思っています。だからといって政治的なことを言うべきではないということではありません。誰しもが表現したいことを表現すればいいのだと思います。もし責任があるとすれば、人生をかけて作品を作るということだと思います。ただ今は何か言わなければいけない、というような圧力があることも事実です。
そうした言葉に自分も疲れていたし、きっとみんなも疲れているだろうなと思って、本当はもっといい加減な作品を作るつもりでした。聴いていて漂えるような気楽なものを作りたかったんですが、まだ自分の人間が至ってないからかできなかった。60歳ぐらいまでにはラブソングだけのアルバムを作りたいなと思うこともあるんですが。
―わかりますよ。音楽家として世相がこうだから、逆にふんわりしたものを作品として出すやり方はあるでしょうし。
石橋:そう。でも作っていくうちにだんだん重くなってしまう。