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“バベル”とEP『私の背景』収録の“夜明迄”のこと
ーそうやっていろんなことを試していった中で、“バベル”は非常に大きなサウンドスケープを描く壮大なポップソングとして仕上がっていて、その上で『私の背景』へと向かいましたよね。“船出に祈り”からリリース順に聴いていくと、“バベル”でひとつ、弾き語りで作った楽曲を自分なりにポップソングとして最大化するということを果たせたからこそ、『私の背景』という、今一度、ご自身の一番深いところを見つめ直して、それを形にするところに向かったのかなと感じたんですけど。
山本:確かに“バベル”に関しては、自分自身とのギャップがない状態でよりポップにするというか、おっしゃったように最大化することが1回完全にできた感覚がありましたね。だからこそ、その反動じゃないですけど、もう少し内省的な、音楽的にももっとテンポが遅くてメロウな感じをやりたいなっていうふうに思って『私の背景』に向かった感じだったと思います。
あのEPは4曲目の“夜明迄”という曲が先にできたんですけど、それまで作った中でも一番好きな曲ができたんですよね。だから“夜明迄”のための作品というか、あの曲の前後に物語をつけたいなっていうのがあって。それで作り始めました。
ー“夜明迄”はウォームなアコースティックギターとクワイア的に重ねられた声の響きを主体として構成されている楽曲ですが、これができた時に一番好きだなと思ったポイントはどんなところにあったんですか。
山本:まず音楽的なところでいうと、ビートがない曲――フランク・オーシャンの“Self Control”が大好きなんですけど、ああいう曲ができたらいいなっていうのがずっとテーマとしてあって。リズムがなくて、コーラスとかリバーブとかの鳴りで埋まってるような感じのサウンドデザインですね。それができたのと、あとは歌詞も気に入っていて。他の方の曲や小説や詩にしても、堅い文章よりも口語っぽかったり、ちょっと可愛さがある言葉が好きで。で、“夜明迄”の詞は柔らかい感じがあって、だけど強さもあって、というところが気に入ってますね。
ーそういうものが好きなのはどうしてなんでしょう?
山本:確かにどうしてなんでしょうね? (長い沈黙)僕は言葉というものには、その言葉の持ってる匂いみたいなものがあると思っていて。同じことを言うにしても、硬い表現よりも口語的な表現だったり、柔軟なもののほうが伝わりやすい気がするからかもしれないです。
