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「変態は古びない」——Corneliusのサウンドが真に独自である理由
―それこそスタジオでの生バンドの演奏、あるいはサンプリングして作る音楽の音響感覚と、DAW的なもので作る音響感覚の差異は感じませんでした?
小山田:それはすごく感じました。音楽をステレオで鳴らすにあたって、リズム、コード、メロディー、音色みたいな音の要素にプラスして「空間の配置」っていう新たなパラメータを意識しながら作るようになりました。
マイクやアンプを使わないDAW的な作り方だと空気の音は入らないので、より音の定位がはっきりするんです。でも一方でデジタルなものばっかりだと小さくまとまるというか、空間がすごく小さくなる感じがあって。そのデジタルな感じとの対比で、ちょっと空気が入るアコースティック楽器や人間の声を入れたくなる感覚はありました。
―ほかに制作上でどんな変化がありましたか?
小山田:近い周波数帯の音を同時発音すると打ち消しあうので、画面でチェックしながら、なるべく同じタイミングで音を出さない、出すんだったら低域と高域を分けるとか、そういうことですね。それはドローンみたいにずっと鳴ってる音に対してもそうで。
音の配置とか、周波数とかを被らないようにすることで、定位がよりはっきりするんですよ。そうやって「音を質量として感じられる」みたいな、音自体を感じられるように作っているところはありますね。
―そこは『POINT』以降のCornelius的な楽曲のルールであり、特徴のひとつですよね。ほかにも禁止事項が小山田さんなかにありそうです。
小山田:あります。でもあまりにもそれが足かせになっちゃうときは外すんですけど(笑)。
―小山田さんの場合、機械の機能やテクノロジーは利用できるものは利用して構わないというスタンスですよね。そういうことは美学として避ける人も多い気がしますが、小山田さんはまったくなさそうな気がします。
小山田:どっちかって言うとないですね。でもさすがにAIは怖いです。まあ、使うけど(笑)。
―AIについては、もう付き合い方の話になってきていますよね。
小山田:そうですね。これから何年先にAIに支配されるようになるかわからないけど、それまではAIと付き合ってかなきゃいけない時代がしばらく続くと思うので。こっちが主導権を握れる時代もまだ続くだろうし、AI的なものと並走していく時代はもうすでに訪れていますよね。
―『POINT』のころって、たとえばポストロック、音響派、エレクトロニカのようなサブジャンルがいろいろありましたが、そのあたりは意識されていました?
小山田:特にエレクトロニカをやろう、ポストロックやろうって意識はあんまりなくて。エレクトロニカはすごい聴いてたけど、グリッチ音みたいなジャンルの記名性が強い音色は意識的に自分の作品には入れないようにしていました。
―発想として、ジャンルとか形式の話ではないわけですね。
小山田:とはいえ、何かしらには寄っているとは思うんですけどね。坂本慎太郎くんが昔、「変態は古びない」って言ってて。
―至言だと思います。
小山田:やっぱり独自性が強いものほど時代を超越するみたいなことはあるなと。時代のイメージが強くありすぎると、その時代特有のものとしてしか受け取られないというか。たとえばNEU!って、本当にずっとNEU!な感じするじゃないですか。
―はい(笑)。
小山田:NEU!って、すべてがNEU!な感じの手法であり、あり方であり、記号性であるし、いまでもひょっとしたらちょっと新しく見えるところがある。ああいうものって強いですよね。
