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投げかけられる「民主主義は可能か」という問い
教皇選挙の結果を握るのは、信仰や思想ではなく、各陣営が張りめぐらせた策略と情報戦、そして内面で燃え上がる野心と悪意だ。瞳の奥に教皇就任への憧れが消えていないベリーニは、リベラル派の内部で票が割れるや、支持の大きいローレンスに向かって「立場をはっきりしろ」と迫り、「これは戦争なのだ」と牙をむく。

各人の間に溝が生まれ、分断が深まるなかで、健全な投票は――すなわち民主主義は可能なのか。それを破壊するものがあるとしたら、それは何なのか、黒幕は誰か。ローレンスの調査は、単に陰謀の真実を明らかにするだけでなく、「選挙」そのものの正当性を護るための戦いなのである。
だからこそローレンスは教会内政治に不信を抱き、自らの立場に葛藤し、信仰のために職務を辞することさえ考えはじめる。しかし、その純粋さは腐敗したシステムのなかでも有効性を保ちうるのか? これもまた、本作が投げかけるひとつの問いにほかならない。
ミステリーというジャンルの性質ゆえ、映画のストーリーにこれ以上踏み込むことはやめておこう。しかし、選挙をめぐる陰謀と駆け引きの物語は、さらなる重層的なテーマをまといながら転がり続ける。保守とリベラルの対立、聖職者のパブリックとプライベート、公正と汚職、多数派と少数派、さらには宗教とテロリズムまで……。
