放送開始前から、脚本:野木亜紀子×主演:大泉洋というドラマ好き垂涎の組み合わせが話題となっていた『ちょっとだけエスパー』(テレビ朝日系)がいよいよ最終回を迎える。
ちょっとだけエスパーとして世界を救うはずだった「Bit5」が、実は、ボスたる兆(岡田将生)による過去の改ざんに利用されていたことが判明したドラマ後半。
SF要素も加わった異色のラブロマンスについて、前半を振り返った記事に続いて、ドラマ映画ライターの古澤椋子がレビューする。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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大切な人を救いたい。想いが際立ち始めた後半

物語の全貌が徐々に明らかになってきた『ちょっとだけエスパー』。
ささやかな超能力を身につけた人物たちによる小さな物語として始まった本作だったが、第6話以降は、彼ら一人ひとりの大切な人を救いたいという切実な想いが、際立ち始めた。
第1話で「ノナマーレ」社長の兆(岡田将生)が語っていた「世界を救う」という言葉に対して、全世界の危機を回避するかのような壮大なイメージを持った視聴者も多いのではないだろうか。しかし、第8話まで見てきて思うのは、個人にとっての「世界」とは、大切な人と過ごす何ということのない日常なのかもしれないということだ。ただただ、その世界を取り戻したい。他の人が犠牲になったってどうでもいい。自分勝手すぎる考えだが、兆の願いは切実だ。そして、その願いは一筋縄では叶えられないからこそ、悲しみがつのる。
『ちょっとだけエスパー』はSF的な世界観を通じて、大切な人との失われた日常とどう向き合うべきかを伝えようとしている。
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複雑な設定を成立させる岡田将生の演じ分け

前半では、ちょっとだけのエスパーで世界を救う「Bit5」のボスとして正義側だと思われていた兆は、愛する妻・四季(宮﨑あおい)を救うためだけに、過去を改ざんする人物だった。言うなれば、ヴィラン(悪役)だ。
四季を救うことができるなら、Eカプセル(本人の資質次第で能力が発現するカプセル)の副作用でエスパーたちが死んだって構わない。第2話ラストで事故に遭った画家・千田守(小久保寿人)のように他人が死ぬこともいとわない。過去を改ざんすることで10年後に1000万人が犠牲になったとしてもどうでもいい。ただ、四季の命が続く未来が叶うのならば、誰がどうなってもいい。四季を救いたいという切実な願いに押されて、兆は犯してはならない大罪に手を染めたのだ。
客観的に見れば兆の願いは自己中心的すぎる。しかし、第6話で四季に対面したときの表情、第7話で未来の記憶をインストールできるナノレセプターを飲んで欲しいと四季に懇願する姿からは、兆が抱え続けた四季を失った悲しみと絶望が痛いほど感じられた。兆は、四季と共に過ごした世界を取り戻したい一心で20年以上、生きてきたのだろう。
兆を演じる岡田将生が、野木亜紀子の脚本作品に出演するのは、『ちょっとだけエスパー』で3度目だ。ドラマ『掟上今日子の備忘録』では、主人公・掟上今日子に振り回される相棒、映画『ラストマイル』では、爆発事件に翻弄される物流センターのマネージャーと、これまではどちらかといえば受け身の役柄を担当してきた。
今回は、さまざまな人物を翻弄する側となり、物語のテーマにもつながる悲しみを背負う役柄だ。野木からの信頼の高さが感じられる。
岡田が、四季の記憶の中に登場する文人(フミト)としてのナチュラルな振る舞いや、兆として長年、苦しみに晒されたことで歪んだ表情など、経年や感情の変化を自然と感じさせることに成功しているからこそ、この複雑な設定が成立していると言えるだろう。
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後悔を抱える久条と桜介が現実を受け止める理由

実際には、2055年を生きている兆。過去にホログラムを送り、立体映像として実在するように見せることができたり、エスパーの能力が発現するEカプセルが開発されたりと技術が進歩した未来を生きているからこそ、四季と過ごした幸せな日々とその未来を取り戻したいという願いが強くなったといえる。そんな兆と対比されるのが、過去に後悔を残しながらも今を生きようとしている久条(向里祐香)と桜介(ディーン・フジオカ)だ。
久条は高校の同級生・八柳(小島藤子)を救えなかった後悔を残しているからこそ、兆に立ち向かおうとしている。第6話で描かれた久条と八柳のやりとりからは、友人以上のなにかを予感させる雰囲気があり、久条にとって八柳は失いたくない「世界」そのものだったのかもしれない。

また、桜介は大切な家族を守りたいという想いで罪を犯したことにより、妻・瑞希(徳永えり)と息子・紫苑(新原泰佑)との日常を失っている。戻れるならあの頃に戻りたいと願いつつも、そばで紫苑を見守り続ける。紫苑からどれだけ敵視されようとも、父親であることは絶対に告げないのは、あの頃に戻りたいのと同じくらい、紫苑の世界を壊したくないという思いがあるからだろう。
過去に戻れないという縛りは、前を向いて生きざるを得ないという諦めにつながる。久条も桜介も現実を受け止めて生きるしかないのだ。
そんな久条と桜介の生き方と比較すると、兆は過去に関与できる技術のある時代を生きているからこそ、四季を取り戻したい欲望が暴走してしまったように見える。その点、本作は、技術の進歩がもたらす悲しみも示唆しているのかもしれない。
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世界でなく「誰かのために」という切実な願い

兆は、四季を救うという個人的な欲望のために、文太(大泉洋)、桜介、円寂(高畑淳子)、半蔵(宇野祥平)に何が起きるか予測がつかないEカプセルを飲ませてエスパーにした。彼らが選ばれたのは、兆が生きる理由や意味を与えなければ1年以内に死んでしまう運命の人物たちだったから。居ても居なくても影響がない、この世界に関与していないと兆が判断した人物たちを利用していたのだ。
兆が利用したのは、誰の心にもある「誰かの役に立ちたい」という根源的な欲望だ。4人はそれぞれ過ちを犯し、取り返しのつかないことをしてしまった人物。やり直せるのならやり直したいという、4人が抱える過去への後悔を兆は利用し、ヒーローとしての役割を与えたのだ。彼らなら「ヒーローとして誰かに必要とされる」という餌に釣られるはずだと思ったのだろう。
一方で、円寂は「世界なんてどうでもいいのよ」「でも、目の前の四季ちゃんを救うってことならわかるじゃない」と第2話で語っていた。ヒーローという誰もが思わず憧れてしまう役割を与えられて、よくわからないミッションをこなしてきたモチベーションは、一人ひとりの人生を良い方向に導きたいという優しさだったのかもしれない。
自分のことを救ってくれなかった世界なんかよりも、自分の大事な人や目の前の人のために。円寂は、ちょっとだけでも、身近な人のためになれば良かったのだ。このことを踏まえると、第7話で、救ったはずの千田守が亡くなっていたことを知り、立ち尽くしていた後ろ姿や、第8話で半蔵に「夢みたいだったわね」と呟いていた場面にどうしようもない切なさを感じる。
こっちのけんとによる主題歌”わたくしごと”のAメロには、<この世に僕がいないと誰か困るのかな><誰かのために生きられたなら>という歌詞がある。世界のためではなく、誰かのために。この歌詞は、いつ死んでも構わないと生きていた4人の切実な願いを表しているのかもしれない。