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バンドを始めた頃のように、三人の個性を混ぜ合わせた制作プロセス
─ライブ作品として参考にしたのがKing Kruleの『You Heat Me Up, You Cool Me Down』(2021年)だったそうですね。
高城:作り始める前は、そうだったかな。あの作品はお客さんの声をスローダウンさせたり、いろいろいじってて最近のライブ盤のなかでは面白い作りなんですよね。
高城:作っていた段階で方向性にちょっと迷ったとき、僕が個人的に聴いていたのは、ゆらゆら帝国の『な・ま・し・び・れ・な・ま・め・ま・い』(2003年)とか、FISHMANSの『男達の別れ』(1999年)とか。
別にああいう作品にはなってないから参照元ではないですけど、ライブ盤ってどんな感じかを確認したくて聴き直したりしました。「お客さんの声、どれくらい入ってんのかな?」みたいな。今回は特にエアー(場内の音)はあんまり使わず、ライン(PAを通した音)をたくさん使っていじったから。
橋本:今回はライブ盤を作るアイデアがそもそも面白かったから、ライブのノイズが入っちゃったり、演奏がちょっとおぼつかなかったりする細かいところはあえてそのままでいい、というのもありましたね。スタジオ作品ではそういうところは残さないじゃないですか。その感じがあったから、ミックスの判断はちょっと気楽だったかも。

橋本:あと、「ここは小田(朋美)ちゃんがすごく印象的なフレーズを弾くところだから(ギターは)聴こえないようにして」みたいな指示を聞いて、それは今、自分のライブには活かされてるんですよね。この作業を経てライブに反映されている部分は多い。
高城:そういうところは、めちゃたくさんあるね。みんながやってることがやっとわかった、みたいな(笑)。個々のいいプレイを判別しないままずっとやってきちゃったから、この段階で整理されてよかったというのはある。特に歌ってると、ほとんど演奏のディテールはわからないから。
荒内:作ってる途中でミックスを聴いて思ったのは、はしもっちゃんの心象風景を見ているようだな、と。たとえば、バンドが盛り上がってるところに、俺だったらキュッと抑えたくなるんだけど、はしもっちゃんはさらにエフェクトで広げているんですよね。演奏に対してそういう認識を持っているのが見えて、それをさらに拡大しているように思った。デカい音をさらにデカくするとか。

橋本:“Fdf”のシンセソロとかね(笑)。もうその音しか聴こえなくなるくらい。
高城:当初、はしもっちゃんは「その曲を通して起きてる事件性」みたいなものをプッシュしてたんだよね。それも面白かったんだけど、そこからあらぴーとの往復があって、抑えるところは抑えて、曲としての成り立ちを取り戻しつつ、事件性もある程度残すべきところは残しつつ。
そのやりとりが制作のハイライトで、俺はそれを「よしよし」「いいね」と取り持つ立場だった。結構大変だったけど、そこが面白いプロセスだから、またこれからもやったほうがいいんじゃないかなと思いました。お互いの一番際立った部分をどう音に落とし込んでいくのか、みたいな。
荒内:そういうのってバンド始めた頃にする話じゃない?(笑)
高城:いや、でも、案外ceroは三人の個性を混ぜ合わせるようなことをやってきてないかもなって思った。サポートの人たちを含めて自然と混ざってきたけど、その中心にいる三人を混ぜるには今回のライブ盤作りは最適な材料だった。俺も、作業中にななチキとかレッドブル買ってきたりね(笑)。
橋本:あれはうれしかったな。
高城:あれは今回一番いい仕事だった! ちょっと煮詰まった雰囲気になってたから、ここぞというタイミングでななチキとレッドブル投入するぞって思ってたんだよね(笑)。そしたら投入後にすごくいいディスカッションが生まれた。俺のハイライトはそれ!
